最新記事

米軍

アフガンの戦場から米兵が去った後、殺人マシンによる「永続戦争」が残る

No End To Forever Wars

2021年4月20日(火)18時58分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元陸軍情報分析官)
米空軍のドローン「リーパー」

監視と攻撃の能力を兼ね備えた米空軍のドローン「リーパー」。ドローンは永続戦争の主役だ STOCKTREK IMAGES/GETTY IMAGES

<バイデン大統領はアフガン駐留米軍の9月11日までの完全撤退を表明したが、残酷な21世紀型の戦闘は見えない形で続く>

ジョー・バイデン米政権がついにアフガニスタン駐留米軍を全面撤退させると決めた。イスラム原理主義勢力タリバンとの怪しげな「和平合意」を口実としたドナルド・トランプ前政権の日程よりは少し遅れるが、あの9.11同時多発テロから20年の節目までに撤退を終えるという。イラクでの戦争も、国際テロ組織アルカイダの掃討も過去の話、ということにしたいのだろう。しかし、アメリカの終わりなき戦争に終わりが来ると思うのは間違いだ。

バイデン政権はアメリカの最も長い戦争を終わらせたいのだろう。終わりの見えない中東各地の紛争にも疲れた。国防総省もテロ対策最優先をやめ、中国やロシアとの「大きな戦争」への備えを固めたいらしい。しかし、それで戦争が本当に終わるわけではない。なぜなら、アメリカはこの20年間にアフガニスタンをはじめとする各地の戦争に学び、その戦い方を変え、終わりなき戦争への道を切り開いてきたからだ。

それは少しずつ起きた変化だ。アメリカの軍隊は地上部隊への依存を、もっと言えば正規兵への依存を徐々に減らしてきた。今や爆撃も殺戮も実際の戦域の外から飛行機やドローンで、あるいはサイバー空間からのクリック一つで行われている。

実際の戦場は見えない

地上部隊の役割は減った。もう相手にする軍隊はいないし、占領する国もない。アメリカ人の命を危険にさらす肉弾戦など、誰も望まない。代わりに出現したのが、柔軟かつ強固でグローバルな情報網に支えられた新手の戦闘スタイルだ。今さら地上に兵員を配備しておく必要はない。実際の戦場は、見えないところにあるのだから。

アフガニスタンを見ればいい。あの国にいる米兵約2500人は9月11日までに本国へ帰還するだろうが、残る要員もたくさんいる。まずは秘密作戦に従事する特殊部隊。そしてCIAの準軍事組織に属する者。彼らは存在そのものが秘密だから、どんな公式集計にも含まれない。

そして彼らと一緒に戦う者たち。アフガニスタンの治安部隊を訓練する要員がいれば、アメリカの供与した最新兵器の使い方を教える技術者もいる。人身売買、汚職などを捜査する国務省、FBIなどのスタッフも残る。

そして今や米軍の活動に欠かせない存在となった民間軍事会社の従業員。アフガニスタンでは彼らの数が7対1で正規兵を上回る。今も54社が求人広告を出してアフガニスタンで働く人材を募集している。職種は各種の情報分析やテロリストの特定からエアコン修理まで多岐にわたる。

こういうやり方なら、正規軍の兵士が撤退しても戦闘は継続できる。この20年で、それ以前には存在しなかった軍事技術も数多く登場した。攻撃用ドローンや自律型の精密攻撃兵器、虫も逃がさぬ監視システム、さらにサイバー戦のシステムもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き トランプ関税の影響見極

ビジネス

スウェーデン中銀、政策金利据え置き 「今後も維持」

ビジネス

米との貿易戦争、ユーロ圏のインフレ率上昇し成長は減

ビジネス

スイス中銀、0.25%利下げ 「インフレ圧力弱い」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 5
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 6
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 7
    DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】LGBTQ+の中で「最も多い」アイデンティテ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 10
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中