最新記事

新兵器

カミカゼ・ドローンで戦況は一変 米軍「最強」の座も危うい

DRONE WARS FOR ALL

2021年4月7日(水)09時25分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

アメリカは消耗戦に備えよ

210413p44_DRN_02.jpg

ドローンによる空爆で破壊されたナゴルノカラバフの道路や車 BRENDAN HOFFMAN/GETTY IMAGES


もっとも、その数字がどこまで真実を示しているのかは分からない。ネット上には、膨大な量の偽情報が飛び交っているからだ。

また専門家たちの目にも、ドローンが攻撃と防御のどちらかに決定的な優位性をもたらすか否かははっきりしない。

ナゴルノカラバフの紛争が示しているのは、イラク戦争開戦直後の「衝撃と畏怖」作戦のように、米軍が圧倒的な爆撃による攻撃に頼る時代は終わりつつあることなのかもしれない。そうした作戦よりも、アメリカはかつての消耗戦のような泥沼の戦いに備えるべきだろう。

「米軍には、自分たちは一点集中型の攻撃と軍事力による『衝撃と畏怖』が敵に影響を及ぼし得るという思い込みが今もある。実際はそうではないのに」。米海軍分析センターの上級科学研究員であるマイケル・コフマンは、将来の戦争に備える上での現在の米陸軍の発想をそう語る。

一方で現実は、ドローンのような機械の自動操作による戦い方が空以外の戦場にも広まっていく可能性が高い。歩兵部隊の将校であるショーは、今後はより弱小な軍がアメリカに倣って、地上や海上に無人の車両や船舶を配備していくと予想する。

「空でできることは地上でも、ひいては海上でもできるようになる」とショーは言う。「これらの無人システムは安価だから今後どんどん広まっていくだろうし、小型化も進んでいくだろう」

米国防総省の計画立案者たちは、既にその方向で動いている。マーク・エスパー前国防長官は、ドナルド・トランプ前大統領が掲げた米海軍増強案「355隻体制」を達成するため、無人船舶の研究と設計に多額の資金を投じた。バイデン政権が艦隊の規模と構成についてどう構想しているかはまだ不明だが、海軍と海兵隊は今年3月、無人システムの活用に向けた工程表を発表した。

こうしたなか、無人航空機はその殺傷能力を増しつつある。ショーは、ドローンは今後ますます「破壊的なパンチ力を持つ空飛ぶ武装車両」のようになっていくだろうと指摘する。

ドローンを破壊するのが難しくなっていく一方で、戦場監視システムもまた安価になりつつある。つまり、地上部隊の殺害はこれまで以上に容易になる可能性がある。長年迷彩柄のフェイスペイント一辺倒だった米陸軍も、今後は敵に見つかって殺されないようにするための新たな方法を考えなければならない。

これがアメリカ式の機動戦にとって新たな課題となっている。ロシアなどがレーダー機能を大幅に向上させているため、20年にわたりイラクやアフガニスタンで戦ってきた米軍にとっては標準的な交信手段のFM通信でさえ再考が必要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国6社が香港上場、初値は概ね公開価格上回る 9億

ビジネス

ノボノルディスク、中国で肥満薬ウゴービ値下げ 特許

ビジネス

英オクトパスエナジー、テック部門クラーケンを分離 

ビジネス

午前の日経平均は小幅続落、年末のポジション調整
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中