最新記事

宇宙ステーション

国際宇宙ステーションで新種の微生物が発見される

2021年3月17日(水)18時30分
松岡由希子

国際宇宙ステーションで採取されたサンプルから4種の菌株を分離し、3種はメチロバクテリウム属する新種だった...... wikimedia

<国際宇宙ステーション(ISS)で採取されたサンプルから、4種の菌株を分離し、そのうち3種は新種だった......>

アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)、南カリフォルニア大学(USC)、印ハイデラバード大学らの共同研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)で採取されたサンプルから、4種の菌株を分離した。

いずれも地球の土壌、淡水などに広く生息するメチロバクテリウム属に属し、そのうち3種は新種であった。一連の研究成果は、2021年3月15日、学術雑誌「フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー」で発表されている。

「宇宙で植物を栽培するために有用な遺伝的決定基を持っている」

ISSでは、乗員のテリー・バーツ飛行士が2015年に施設内8カ所でサンプルを採取。そのうち、2015年3月に天井パネルで採取された「IF7SW-B2T」、同年5月に観測用モジュール「キューポラ」で採取された「IIF1SW-B5」、同年5月にダイニングテーブルで採取された「IIF4SW-B5」は新種であった。

遺伝子解析によると、いずれも「メチロバクテリウム・インディカム」の近縁種とみられる。また、2011年5月に帰還した使用済みのHEPAフィルターから分離された菌株は、既知種「メチロバクテリウム・ロデシアヌム」と同定された。

メチロバクテリウム属は、窒素固定や非生物的ストレス耐性、植物生長促進、植物病原体に対する生物的防除などに関与する。ゲノム解析により、新種の「IF7SW-B2T」は、植物の生長を促進する植物ホルモン「サイトカイニン」の生成に不可欠な酵素の遺伝子を有することも明らかとなっている。

研究論文の責任著者でNASAジェット推進研究所のカスツーリ・ヴェンカテーシュワラン博士は、「資源のわずかな極限環境で植物を栽培するためには、ストレス条件下で植物の生長を促す新たな微生物を単離することが不可欠だ」としたうえで、「これらの菌株は、宇宙で植物を栽培するために有用な遺伝的決定基を持っている可能性がある」と期待を寄せている。

「ISSには、ヒトの微生物叢を中心に、様々な細菌や真菌が存在する」

ヴェンカテーシュワラン博士の研究チームは、バーツ飛行士らが2015年から2016年にかけてISS内8カ所で採取したサンプルを分析し、2019年4月に「ISSには、ヒトの微生物叢を中心に、様々な細菌や真菌が存在する」との研究結果を発表している。

ヴェンカテーシュワラン博士は、今回の研究成果をふまえ、「ISSは清潔に保たれた極限環境だ。乗員の安全が最優先されるため、ヒト病原体や植物病原体の解明は重要だが、今回発見された新種の菌株のように、有益な微生物も必要だ」と述べている

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中