最新記事

遺伝子

「一卵性双生児の遺伝情報は同一ではない」ことが明らかになってきた

2021年3月15日(月)18時50分
松岡由希子

一卵性双生児は、同一の遺伝情報を持っていると思われてきたが...... heidijpix-iStock

<一卵性双生児は、同一の遺伝情報を持っていると思われてきたが、近年、一卵性双生児の間で異なる遺伝情報があることが明らかになってきた......>

1つの受精卵が2つに分かれて生まれる一卵性双生児は、同一の遺伝情報を持ち、それぞれの身体的特徴や心的特性は、遺伝的要因よりも環境的要因によるものだと考えられてきた。

このような仮説を前提として、双生児を対象に人間の身体的特徴や心的特性に対する遺伝的要因と環境的要因の影響を調べる「双生児法」が様々な研究で用いられている。

宇宙環境がヒトにどのような影響をもたらすのかを解明する研究プロジェクト「ツインズ・スタディ」


初期発生段階で発現した突然変異で、一卵性双生児は異なる遺伝情報を持つ

しかしながら、近年、一卵性双生児の間で異なる遺伝情報があることが明らかになってきた。

米アラバマ大学の研究チームは、2008年2月に発表した研究論文で、「一卵性双生児のゲノムは同一ではない」ことを示した。

アイスランドのバイオ医薬品会社デコード・ジェネティックスの研究チームが一卵性双生児381組とその親、配偶者、子を対象に遺伝情報を解析した研究でも、これを裏付ける結果が出ている。

研究チームは、2021年1月7日、遺伝学専門学術雑誌「ネイチャージェネティックス」で「初期発生段階で発現した平均5.2個の突然変異により、一卵性双生児は異なる遺伝情報を持つ」との研究論文を発表した。

なかでも、約10.2%にあたる39組で100個以上の突然変異があった。その一方で、遺伝情報が同一であったのは38組で、全体の約9.9%にとどまっている。また、一卵性双生児の約15%では、初期発生段階で発現した突然変異が一方の双子に顕著に多くみられ、他方にはみられなかった。

「医学研究に明らかに役立つ重要な成果だ」

研究チームは、全ゲノムシーケンスにより、「どの突然変異がどの双子で発現し、これらの突然変異のうちのいずれが子に継承されるのか」を追跡するとともに、双子間で共有されるものの、すべての細胞に均質に存在しない「モザイク現象」を調べた。

「モザイク現象」は、卵子が受精した後、受精卵が2つに分かれる前に突然変異が生じたことを示す。その結果、突然変異は、受精卵が2つに分かれる前に発現したこともわかった。

遺伝子の突然変異と関連するとみられる自閉症やその他の発達障害は、双子の一方で発症することがある。研究チームは、一連の研究結果をふまえ「このような表現型の差の形成において、遺伝的要因の役割が過小評価されてきたのではないか」と考察している。

スウェーデン・ウプサラ大学の遺伝学者ヤン・デュマンスキ教授は、AP通信の取材で、「医学研究に明らかに役立つ重要な成果だ」と研究成果を大いに評価し、「双生児法をはじめ、双子をモデルに用いる際は、慎重でなければならないことを示唆している」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中