最新記事

量子コンピューター

文系でも分かる「最強計算機」量子コンピューター入門

QUANTUM COMPUTER 101

2021年2月18日(木)17時30分
ニューズウィーク日本版編集部

超電導型量子コンピューター「IBM Q」 SCIENCE PHOTO LIBRARY/AFLO

<量子って何? 従来のパソコンとの違いは? 量子コンピューターの素朴な疑問に答える>

量子コンピューターは「最強の計算機」「世界の未来を変える」と言われる。しかし、そもそも量子が何か分からない人も多いはず。そんな「文系人」でも理解できるよう、量子コンピューターの知るべきポイントを物理学者の監修を受けつつ、編集部がまとめた。

◇ ◇ ◇


Q:量子って何?

A:私たちの周りにある物質は全て原子から成り立っている。原子は1個のサイズが0.1ナノメートルと極めて小さい。この原子は中心にある陽子と中性子、さらにその周りを回っている電子でつくられている。原子から陽子、中性子、電子、さらに光の構成単位である光子やニュートリノ、クォーク、ミュオンなどの素粒子を含めて量子と呼ぶ。

実は、こういった量子の動きはニュートンの万有引力で知られる古典的な物理学では全く説明がつかない。大ざっぱな言い方をすると、重さのある大きなモノ(例えばリンゴの落下)は古典力学で説明できるが、重さのほとんどない小さいモノ(量子の動き)は説明できない。このため、目に見えない微小な領域における量子と量子に付随する動きを定義する新しい量子力学が20世紀初めに生まれた。「古典力学で全く説明のつかない量子の動き」を利用したのが量子コンピューターだ。

Q:なぜ量子がコンピューターを動かすの?

A:そのためには、量子の不思議な動きを説明する「2重スリットの実験」について知らなければならない。

向こう側にある壁と自分の間に、細い縦長の穴「スリット(隙間)」が2つ開いた壁をさらに1枚置く。そして、向こう側の壁に向かって電子を発射する。電子はボールのようにどちらか1つの隙間を通って向こう側の壁にぶつかると常識的には思うが、現実は「波」のように広がりながら2つの隙間を同時に通り、向こう側の壁にぶつかる。

この現象は「重ね合わせ」と呼ばれ、2つの波の重なり合い(干渉と呼ばれる)で電子がぶつかる場所は決まる。1つの物質が2つの穴を同時に通るのは日常感覚では理解できないが、この現象を利用したのが量子コンピューターで、「2重スリットの実験」が理解の大きなカギだ。

Q:今までのコンピューターとどこが違う?

A:今われわれが使っているコンピューターは、トランジスタというスイッチをたくさん並べて大量の計算をこなす仕組みだ。スイッチが入っていない状態が「0」、入れると「1」で、全ての数字を「0」と「1」で表す2進法が採用されている。この「0」「1」を表す情報単位を「ビット」と呼ぶ。

現在のコンピューターでは「0か1か」で計算を進めるが、量子力学の「重ね合わせ」現象では、「0でもあり1でもある」という状態が生まれる。この「0でもあり1でもある」という状態を利用して計算するのが量子コンピューターだ。

例えば、0と1を使って「000」「001」「010」「011」「100」......「111」という8つの数字の組み合わせをつくり、どれか1つを正解に設定する。現在のコンピューターは「000」から「111」まで、8回計算しないとどれか1つの正解にたどり着けない。

ところが、「0でもあり1でもある」という量子の特質を利用する量子コンピューターは、「000」から「111」までの8つ組み合わせを「重ね合わせ」の状態をつくることで、一度に計算ができる。この「0と1を重ね合わせた」状態の情報単位を「量子ビット」と呼ぶ。

これまでのコンピューターが8回計算しないと正解にたどり着けないのに対し、量子コンピューターは重ね合わせを利用することで、1回の計算で正解を見つけることができる。「n量子ビットの量子コンピューターは2のn乗通りで計算できる」ので、例えば量子ビットが10個あるなら2の10乗=1024パターンを重ね合わせ、一気に計算できる。

Q:量子コンピューターは誰が発明した?

A:最初にアイデアを生んだのは、アメリカの物理学者リチャード・ファインマン。1985年に量子コンピューターの出現を予言した論文を発表した。またこの年にイギリスの物理学者デービッド・ドイッチュが、「量子チューリングマシン」によって量子力学の原理に基づくコンピューター計算の基礎理論を定式化した。「チューリングマシン」はイギリスの数学者アラン・チューリングが1936年に考案した計算機の数学モデルで、最も単純化されたコンピューターのこと。ドイッチュがつくったのはその量子版だ。

ドイッチュの理論で量子コンピューターに優れた性能があることは分かったが、実際にどう役立てるのかは、はっきりしなかった。それを実現したのが、1994年に量子コンピューター特有の解き方で高速に素因数分解できるアルゴリズムを発見したアメリカの数学者ピーター・ショア。その後、世界中の研究機関や企業が開発に参加して現在に至る。

quantum02.jpg

最初に量子コンピューターのアイデアを生んだアメリカの物理学者リチャード・ファインマン SCIENCE PHOTO LIBRARY/AFLO

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:日米会談、高市氏は「グレーゾーンの

ワールド

焦点:崩れた日米首脳会談の「青写真」、中東情勢が最

ワールド

米ゴールデンドーム構想、費用1850億ドルに拡大 

ビジネス

アマゾンのクラウド部門売上高、AI追い風に6000
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    「目のやり場に困る...」グウィネス・パルトロウの「…
  • 10
    戦争反対から一変...湾岸諸国が望む「イランの脅威」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中