最新記事

日本社会

コロナ禍で増える困窮者、「1日1食」の若者も 日本のセイフティーネットのぜい弱さ露呈

2021年2月9日(火)12時03分

転売などを防ぐ必要があるとして、炊飯で提供する原則も維持したため、使い勝手が悪いとの批判が相次いだ。そこで今年2月、子どものいる低所得家庭に食材を届ける民間支援団体(こども宅食など)を対象に加え、新たに1団体につき年間300キロまで提供することにした。精米を供給することも可能になった。

ただし、こうした備蓄米提供の目的はあくまで「食育」。ごはん食の重要性を子どもに理解してもらうためであって、生活に苦しむ大人はこの安全網には引っかからない。厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、いわゆる貧困層に当たる人々の割合は人口の15.4%を占めている。およそ1900万人に上るとみられ、直近の所得に当てはめると、日本人の平均可処分所得の半分である「貧困線」にも満たない年間127万円未満の所得しかない世帯だ。

セカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン最高経営責任者(CEO)は、「およそ2000万人弱が貧困線以下で生活している実態がある中で、備蓄米の放出を1団体年間300キロという量は侮辱行為だ」と、さらなる放出を求めている。「この国では備蓄米は相当な量だ」と主張する。

不十分な食のセイフティーネット

一方で、農水省は「備蓄米の交付条件の緩和は難しい」(穀物課)とする。備蓄米はもともと、不作に備えるための制度として作られた。十分に流通している中で備蓄米を大量に提供すると、市場に影響を与える恐れがあると説明する。また、今回の備蓄米提供は「食育」のためであり、貧困対策として実施しているものではないと話す。

困窮者対策を担う厚生労働省も、「現物支給という形での支援は行っていない」(社会・援護局)とする。あくまで地域の実情に応じた困窮者対策として、自治体単位で相談窓口の設置や就労サポートという形の後方支援にとどまる。

米国では、政府の低所得者向け食料補助対策として「フードスタンプ制度」がある。米農務省によると、20年末時点で全人口の1割以上に当たる3570万人程度が受給する。ただし、たびたび不正利用が指摘され、19年には農務長官が「いくつかの州では制度の抜け穴を利用して、本来なら資格がなく対象にならない人々が給付を受けられるようになっている」と指摘。それでも、その日の食料に事欠く人たちの公的なセーフティネットとなっている。

日本には生活保護という最後の安全網はあるものの、その利用のハードルは高い。緊急避難的に「その日の食事」に困った場合の駆け込み寺は、もっぱらフードバンクやNGO(非政府組織)など民間任せとなっており、公的な「食の安全網」は十分とは言えない状況だ。

「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」と、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトンCEOは指摘する。

(中川泉 金昌蘭 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】


ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン交戦は国連憲章違反、学校攻撃にも深い衝撃=独

ワールド

トルコ、イランの弾道ミサイル迎撃 NATO防空シス

ビジネス

米2月ISM非製造業指数、56.1に上昇 3年半ぶ

ワールド

米潜水艦がイラン軍艦を魚雷で撃沈、87人死亡 スリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 8
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中