最新記事

ハッカー

アメリカ政府機関へのサイバー攻撃、修復に半年以上かかる可能性も

2020年12月26日(土)09時56分

サイバーセキュリティーの専門家スティーブン・アデア氏のチームは今年、ハッカー攻撃を受けたあるシンクタンクのネットワークの分析・修復作業を進めていた。写真はベルリンで2013年5月撮影(2020年 ロイター/Pawel Kopczynski)

サイバーセキュリティーの専門家スティーブン・アデア氏のチームは今年、ハッカー攻撃を受けたあるシンクタンクのネットワークの分析・修復作業を進めていた。ログデータに不審なパターンが見つかったのは作業の最終段階に入ってからだ。

ハッカーは、このシンクタンクのネットワークに侵入しただけではなく、電子メールシステムにもやすやすと侵入。最近更新されたばかりのパスワードによる保護システムも、何事もなかったかのように通過していた。

「これは・・・並みのハッカーではない」。アデア氏はインタビューで当時の心境を振り返った。

アデア氏が悪戦苦闘したハッカー集団が、米政府機関へサイバー攻撃を仕掛けた高度なハッカー集団と同一の存在だったことが分かったのは先週になってからだ。

米国では、財務省、国土安全保障省、商務省、エネルギー省、国務省など、複数の政府機関が米ソーラーウィンズのネットワーク管理ソフトを利用したハッカー攻撃を受けている。

このニュースを知って、アデア氏がすぐに思い起こしたのが冒頭のシンクタンクへのハッカー攻撃だった。ハッカーがソーラーウィンズのネットワーク管理ソフトへの侵入を試みた形跡はあったが、具体的な侵入地点を特定するために必要なデータは見つからなかった。

米政府高官や議会関係者は、政府機関へのサイバー攻撃にロシアが関与していると主張しているが、ロシア政府は関与を否定している。

アデア氏は5年間にわたって米航空宇宙局(NASA)のサイバーセキュリティー対策を支援。その後、サイバーセキュリティー企業ボレキシティを設立した。

米国では、多くのサイバーセキュリティー会社が、当時のアデア氏と同じように、ハッカー攻撃を受けたネットワークの分析・修復作業を進めている。

アデア氏の同僚ショーン・コーセル氏によると、ボレキシティには、ハッカー攻撃を懸念する企業から1日当たり10件前後の問い合わせがあるという。

コーセル氏によると、冒頭のシンクタンクの事例では、システムを修復するまで、昨年終盤から今年半ばまでかかった。作業を進めている間も、ハッカーは2度にわたってネットワークに侵入したという。

同氏は、連邦政府機関へのハッカー攻撃に対処するのは、その何倍も難しいだろうと指摘。「半年以上かかることは容易に想像がつく」と述べた。

エア・フォース・サイバー・カレッジの学部長を務めたニューヨーク大学のパノ・ヤナコゲオルギオス准教授も、解決には時間がかかると指摘。一部のネットワークはすべて取り換える必要があるだろうとの見方を示した。

いずれにしても、ネットワークの分析・修復には専門家の膨大な作業と多額の資金が必要になるとみられる。

同准教授は「多くの時間、資金、才能、それに(カフェインの入った飲料)『マウンテンデュー』が必要になるだろう」と語った。

(Raphael Satter記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・アメリカ大統領選挙、敗残のトランプを待ち構える訴訟の山 検察による刑事捜査も
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力


ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中