最新記事

アメリカ

報道機関の「真ん中」の消失、公共インフラの惨状が深めた分断

2020年12月29日(火)17時20分
金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載

共和党トランプの支持者と、民主党クリントンの支持者が異なるメディアから情報を得ていた可能性が高い。生活空間だけでなく、メディア空間も二分されており、ここでも「真ん中」が抜け落ちている。

主要メディアがトランプの問題点をいくら報じても、トランプ支持者はそもそも見ていないため伝わらない。トランプ批判の決定打になりそうなスクープが放たれ、私も「支持層も動揺するか」と思い、現地に入ると、誰も気にしていない、そもそも知らない、ということが繰り返された。逆にリベラル側にも「トランプたたき」がウリの政治番組に夢中になる人が少なくない。報道機関の「真ん中」がなくなることの影響は計り知れない。

最近は、リベラルなMSNBCやCNNと、保守的なFOXニュースが、互いの報道ぶりを切り取って番組内で紹介し、「プロパガンダだ」などと非難しあう事態が頻発している。分断は深まるばかりだろう。

偏った情報、なぜ信じるのか?

もう一つ気になるのは、一部のメディアが流す偏った情報やデマを信じるトランプ支持者が少なくないことだ。例えば、「民主党は過激な社会主義者」「民主党が政府を肥大化させ、あなたの銃を奪いに来る」といった情報だ。

しかし、地元で民主党員の知人や政治家を具体的に知っていれば、歪んだ情報を見抜くことは簡単なはずだ。民主党員にも(社会争点で)保守的な人は少なくないし、週末に猟に行く銃の愛好家もいる。異なる考えを持つ仲間がいれば、何か偏ったことを言ってしまっても、修正の機会をくれるだろう。

やはり、中間団体の機能が弱まり日常に「他者が不在」なこと、党派色の強いメディアに接していることが背景にあるのかもしれない。かつての社会的な紐帯が弱まり、浮遊する個人が、ケーブルテレビやSNS、ラジオ番組で直接入ってくる偏った情報に流されるイメージが浮かぶ。

パブリックの軽視、ぼろぼろインフラ

二つ目の「パブリックの軽視」の話に移りたい。

アメリカで驚かされるのは、公共インフラの整備が後回しになっていることだ。地方を車で走っていて気をつけなければならないのが道路の陥没だ。よけないとパンクしそうなほどの衝撃を受ける。ニューヨーク市内の地下鉄駅はゴミだらけ、ネズミだらけ。都市間を結ぶ高速鉄道には、トイレが未整備でホーム中にアンモニア臭が充満している駅もある。

多くの人が使うはずのインフラが整備されないことは私にはナゾのままなので、本稿では取材経験のある公教育に触れたい。2018年に教員デモを取材すると、にわかには信じられない証言が集まった。デモはウェストバージニア州で始まり、ケンタッキーやアリゾナなどへ飛び火した。私はオクラホマ州を訪ねた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止 働き手不

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中