最新記事

ISSUES 2021

特効薬なき対コロナ戦争、世界は中国の「覚悟」に学ぶべき

THERE WILL BE NO QUICK COVID FIX

2020年12月22日(火)15時45分
ウィリアム・ヘーゼルタイン(感染症専門医、バイオ技術起業家)

magSR201222_Issues2.jpg

ワクチンへの期待は高まる一方 BRENDAN MCDERMID-REUTERS

最近注目されているモノクローナル抗体(中和抗体)の医薬品のような、より有望な薬や治療法が完成するのは、まだかなり先になる。完成したとしてもコストが高く、普及は見込めない可能性もある。

特効薬がないからこそ、政府の指導力、ガバナンス、そして社会の連帯が問われる。政治指導者は、コロナ禍で失われる人命に対して全責任を負わなければならない。

2020年1月、新型コロナが特定された後、中国湖北省の省都・武漢で最初の死者が報告されてから2〜3週間のうちに、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は武漢のロックダウン(都市封鎖)を実施し、さらに湖北省全域に範囲を拡大した。5800万人を超える住民に市外への移動を禁止し、外出を厳しく制限した。中国はマスク着用やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、自主隔離の義務化などのごく一般的な措置により、わずか2週間で新規感染者を半減させられることを示した。

中国が成功した要因を全体主義に求める見方が多いが、それは違う。決め手となるのは国の統治制度ではなく、経済への短期的な打撃や日常生活に多少の不便を招いても市民の安全を守るという指導者の覚悟だ。

その証拠に活気ある民主主義国家のニュージーランドやオーストラリアも、大胆で力強い政治的決断によって新規感染者をほぼゼロにした。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相の強い覚悟は、総選挙での与党圧勝という形で報われた。

「戦時」だという意識を

新型コロナへの対応に追われた1年目で私たちが学んだのは、中途半端な措置は流行を悪化させるだけだということだ。国家規模、世界規模の危機には、国全体、世界全体での協力が必要だ。アメリカやイギリス、ブラジルの指導者はその点を怠ったため、状況をますます悪化させた。

人口の大半が免疫を獲得することで感染拡大を抑える「集団免疫」の達成という愚かな考え方を、いまだに追求している国もある。世界では毎年、人口の最大15%が4種類の一般的なコロナウイルスに感染しており、繰り返し感染する人も多い。新型コロナも例外でなければ、集団免疫に期待をかける国は国民を毎年、危険にさらすことになる。

magSR201222_Issues4.jpg

ブラジルのサンパウロで犠牲者のために墓穴を掘る作業員 AMANDA PEROBELLI-REUTERS

中国政府は初期対応でいくつか重大な判断ミスも犯したが、一つ正しいこともした。それは新型コロナが空気中を漂う性質を持つ伝染性のあるウイルスであり、思い切った措置を迅速に取らなければ抑えられない、と世界に警告したことだ。

その警告を無視した国が、経済的にも人命に関しても最大の打撃を受けている。一方で感染拡大を抑制するために社会が団結した国は、経済活動の再開にこぎ着けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、最高値更新 高市首相誕生

ワールド

ボリビア新大統領、IMFへの支援要請不可欠=市場関

ワールド

米豪首脳がレアアース協定に署名、日本関連含む 潜水

ワールド

カナダ、米中からの鉄鋼・アルミ一部輸入品への関税を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中