最新記事

感染症対策

ツインデミックは杞憂? 冬を迎えた欧州、コロナ第2波でインフル激減の可能性

2020年12月5日(土)19時46分

欧州が新型コロナウイルス感染の急増リスクのある冬に備えている中で、今のところインフルエンザの確認感染数が最小限にとどまっている。独ベルリンの病院で10月撮影(2020年 ロイター/Fabrizio Bensch)

欧州が新型コロナウイルス感染の急増リスクのある冬に備えている中で、今のところインフルエンザの確認感染数が最小限にとどまっている。これは欧州の人々にとって一筋の光明かもしれない。

10月初めごろ以降は例年ならインフル感染が増え始める時期だが、今年の場合、欧州地域で得られるそうしたデータは、今年の南半球や、インフルの季節が始まったばかりの米国のデータとも動きが一致している。

インフルの流行抑制について、一部の医師はロックダウン(封鎖)やマスク着用、手洗いなどの組み合わせが影響しているように見えると指摘。ただし、インフルの季節のピークはまだ数週間後、あるいは数か月後になるため、現在のデータは慎重に見るべきだとも警告する。

WHO基準大きく下回る陽性率

欧州疾病予防管理センター(ECDC)と世界保健機関(WHO)が共同運営する感染症監視機関「フルー・ニューズ・ヨーロッパ」によると、欧州域内54地域からサンプルを集めた結果、9月28日-11月22日のインフル定点検査4433件中、陽性と診断されたのは1件だけだった。

この定点検査データは、さまざまな地域医療機関が集めたサンプルに基づいて欧州各国の保健当局が照合したものだ。それによると陽性率はわずか0.02%だった。WHOがインフルの大流行の基準と見なす10%をはるかに下回る。昨年の同じ時期の調査では陽性率は15%だった。

米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国内の公的医療研究機関などの報告では9月27日以来、インフル感染数は500件を下回っており、死亡例は1件もない。

専門家は新型コロナ禍でインフル検査が滞っていることもあると慎重な構えだ。一方で、欧州の定点検査が示した、これまでのところのインフル感染の少なさは、政府や保健当局をやや安堵させるだろう。冬に新型コロナとインフルの流行が重なって医療を崩壊させる事態が恐れられていたからだ。

フランスのリヨンで13の病院を経営する医療機関のウイルス学者、ブルーノ・リナ氏はロイターに「例年なら欧州でもそれ以外の地域でも、この時期は何百人ものインフル感染が確認されているはずだ」と話した。「新型コロナ感染を防ぐために取られた措置が、インフルやほかの呼吸器系ウイルスに対して極めて有効だということだ」という。

リナ氏や他の専門家2人は「ウイルス干渉」効果の可能性も指摘する。あるウイルスにさらされることで引き起こされる免疫反応が、他のウイルスにとって致命的になるというメカニズムだ。今は新型コロナがまん延しているため、インフルのような他の呼吸器系ウイルスにとって新型コロナとの共存が、まったく不可能ではないにしても、極めて難しくなっている可能性があるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中