最新記事

バイデンのアメリカ

若者を魅了した若き日のバイデンに見る「次期大統領」の面影

BIDEN AT THE BEGINNING

2020年11月25日(水)19時20分
ジム・ヌーエル(スレート誌政治記者)

上院選に初当選した当時、バイデンはアメリカで最年少の上院議員だった BETTMANN-CONTRIBUTOR-GETTY IMAGES-SLATE

<29歳で上院議員選に初挑戦し、若い世代の熱狂的支持を得てから半世紀──番狂わせの「最初の選挙」に次期大統領の個性はすでに表れていた。本誌「バイデンのアメリカ」特集より>

1972年秋、大統領選と連邦議会選挙(上下両院)の投票日まで1週間余りとなったある日、デラウェア州の有力紙ニューズ・ジャーナルに広告が掲載された。
20201124issue_cover200v2.jpg
出稿者は同州のニューキャッスル郡議会議員で、上院議員選に出馬していた29歳のジョー・バイデン。現職2期目で62歳の共和党の大物議員ケール・ボッグズに挑む若きバイデンは、ボッグズの世代と世の中のズレに焦点を当てた広告を打った。「ケール・ボッグズ世代の夢はポリオ撲滅だったが、ジョー・バイデン世代の夢はヘロイン撲滅だ」

広告のキャッチコピーは、州内の地域状況に合わせてバイデン自身が考案したとされる。州南部の海沿いの地域では「30年前、環境保護といえばレホボスビーチで瓶やビール缶を拾うことを意味したが(中略)、今ではビーチそのものを救うことを意味する」と訴え、州北部では「1950年代、ボッグズはハイウエーの延伸を約束した。1970年代のバイデンは樹木を育てることを約束する」と語り掛けた。

ニューズ・ジャーナルのノーム・ロックマン記者は当時、バイデンの広告戦略を「親愛なる老父」作戦と呼んだ。「老いた父の言葉は、彼の時代には正しかったのかもしれない。それに、僕は父を愛している。でも時代は変わったんだ」というアプローチである。

広告を打ってから1週間ほどして迎えた選挙当日、バイデンは3000票余りの僅差でボッグズを破るという番狂わせを演じ、世間を驚かせた。誕生日が投票日の2週間ほど後だったため、選挙当日には30歳という上院議員の被選挙権年齢にさえ達していなかった。

「本当に衝撃的だった」と、当時ニューズ・ジャーナルの記者として選挙戦を追ったボブ・フランプは最近、筆者に語った。「取材を通じて、ジョーにも勝ち目があるとは思っていた。でも編集部で結果を見ながら、誰もが信じられない思いだった」と、彼は言う。「人々が本気で新しい未来を望んだのだと思う」

この驚きの初勝利を皮切りに、バイデンは上院議員として36年、副大統領として8年のキャリアを積んだ。そして今回、大統領選への3度目の挑戦で、ついにアメリカ大統領の座を確実にした。

1972年当時のバイデンは、新鮮でカリスマ的な活力にあふれた候補者を待ち望む若者(とその親たち)を魅了した。だが、今のバイデンはかつてのボッグズと同じ。多くの有権者に長年支持されてきた愛すべき大御所だが、同時に長年のキャリアゆえに、新しい風を待ち望む声をかき立てる存在でもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の即刻見直しかなわないなら、合意は困難=日米交

ワールド

トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措置示

ワールド

中国、ブラジル産鶏肉の輸入全面禁止 鳥インフル発生

ビジネス

マクロ系ヘッジファンドへの関心高まる、市場の変動に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中