最新記事

イスラム教

「イスラム教徒はフランス人殺す権利」 斬首テロめぐるマハティール発言に「テロと宗教は無関係」とインドネシア大統領

2020年11月1日(日)09時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

MUIはマアルフ・アミン副大統領が重鎮を務めるイスラム教指導者による団体で「ファトワ(宗教令)」や「ハラル認証」を発布するなどその影響力、指導力は大きい。

MUIなどのイスラム教団体はフランス製品の不買を呼びかけてはいるが、実のところインドネシアではフランス製の高級ブランド品やフランス料理店などは一部富裕層しか利用していない。またフランス産ワインなどのアルコール類はイスラム教徒の禁忌(摂取が許されないもの)とされ基本的に飲まない。

さらにフランス製香水もイスラム教徒の女性は礼拝施設「モスク」に入る際には強い香りが禁忌とされることなどからあまり縁がなく、不買運動をしようにもやりようがないというのが実情だ。

さらにインドネシアは10月28日から11月1日まで長期休暇中であることも目立った反仏運動が起きていない一因とされている。

マハティール前首相の発言意識か

このようにインドネシアでは比較的冷静な対応が続いていたが、マレーシアのマハティール元首相がムハンマドの風刺画事案に関連して29日、「イスラム教徒はフランス人を殺害する権利がある」という趣旨をツイッターに投稿してたちまち全世界に拡散した。

フランス政府の猛抗議を受けてツイッター社はこの投稿を削除した。マハティール元首相の真意は不明だが、この発言は「過激で短絡的発言」とインドネシアのイスラム教徒の間でも一般的には受け止められている。

しかし一部のイスラム急進派や過激派の中にはこの発言をまともに受けて過激な行動に出る可能性が完全に否定できないことや11月1日に休暇が終わることなどからジョコ・ウィドド大統領自身が31日に一連の風刺画事件に関して言及したのではないか、との見方が有力だ。

「協調と寛容」の精神を強調

ジョコ・ウィドド大統領は「世界中のイスラム教徒を侮辱したフランス大統領の発言を非難する」としたうえで「テロと宗教を結びつけることは間違いである。テロはテロであり、テロリストはテロリストであり、いかなる宗教とも関係ない」と教師殺害というテロ行為とイスラム教を短絡的に結びつけることを戒めた。

そしてジョコ・ウィドド大統領は最後に「インドネシアはよりよい世界構築のため宗教的協調と寛容をなにより優先している」と述べてインドネシアの国是でもある「多様性の中の統一」と「寛容性」を強調した。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 9
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中