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全米で大統領選控え記録的な銃購入ラッシュ 初心者殺到、選挙結果の混乱への「恐怖心」で

2020年10月23日(金)17時23分

フィンチ氏によれば、クラブの発足はパンデミックが始まった今年3月で、ジョージ・フロイドさん殺害事件の後は、再び大きく関心が高まった。クラブへの参加や銃の安全な扱いに関する訓練について、毎日電話やメールを15件は受けているという。多くはこんな質問だ。「万が一、家族を守らなければならない場合、銃をどのように扱えばいいのか」

ボストンの技術革新コンサルタント、ユージーン・バフ氏は、ユダヤ系で政治的には保守派だ。この夏、フェイスブックに銃のインストラクターの資格を持っていると投稿したとき、やはり同じような反応を受けた。

初めて開催した教室はあっというまに予約で埋まった。ほとんどは、シナゴーグでの乱射事件やパンデミックによって、自らの安全を懸念する高齢のユダヤ系市民だった。バフ氏によれば「彼らの多くは銃を好まず、恐れてもいる」が、現在は銃への恐れよりも、身を守る必要性の方を強く感じているという。

「あらゆる善人」が銃を購入

従来、米国で銃を購入する最大のグループは、圧倒的に白人男性だった。無党派のピュー・リサーチ・センターが2017年に実施した調査によれば、米国の白人男性の半分近くが銃を保有しているのに対し、非白人男性の場合は約4分の1にとどまる。

銃器産業を研究する学術専門家3人は、ロイターによるインタビューの中で、今回の銃購入ラッシュに伴い、こうした人口統計上の構成に大きな変化が生じたかどうかを確認する十分なデータはないと語った。

だが、フロリダ州立大学のベンジャミン・ダウドアロー教授(公衆衛生学)は、この激動の1年で生じた深い政治的・人種的分断が銃器販売を加速させていることは間違いないと話す。同教授は、こうした緊迫した時期には、イデオロギーの左右にかかわらず、銃の購入者は自らを「悪人」から身を守る「善人」と位置付けているという。

「つまり、あらゆる『善人』は銃を買いに行く必要がある、というわけだ」とダウドアロー教授は言う。

シカゴ郊外で射撃練習場と銃関連用品店を経営する前出のエルドリッジ氏によれば、昨今の出来事は、今度の選挙で民主党が政権を握った場合の銃規制に対する懸念とも相まって、従来の顧客層の間でも銃購入が増えているという。

エルドリッジ氏の地域は、米国における銃器購入の中心地である。1つには、シカゴで暴力事件が急増し、その原因をめぐる煽動的な政治的言説が増えているからだ。イリノイ州は銃購入者の身元調査件数が9月末までの時点で560万件と国内トップであり、2位の2倍以上となっている。

ちなみに、イリノイ州における2019年通年での身元調査件数は490万件、2018年は280万件だった。

「人々は高層マンションに暮らし、毎日行くウォルグリーンの店舗が略奪に遭うのを目にしている」とエルドリッジ氏は言う。


Tim McLaughlin Melissa Fares(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


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