最新記事

ドキュメンタリー映画

ラストベルトで育った若者のリアル『行き止まりの世界に生まれて』

Lost and Found

2020年9月5日(土)15時00分
アンナ・メンタ

(左から)キアーとリューとザックはスケボー仲間だ PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT, COURTESY OF HULU

<貧困や連鎖する虐待などを抱えて生きるスケボー少年たちを描いた注目作>

ビン・リュー監督の『行き止まりの世界に生まれて』は、アメリカのラストベルト(さびついた工業地帯)に暮らすスケートボードを愛する若者2人を追ったドキュメンタリー映画だ。

舞台となるイリノイ州ロックフォードはリューの故郷。かつて同州第2の都市だったが、1980年代後半以降、急激に衰退した。時給が15ドルに満たない労働者は全体の半数に迫り、2010年以降は州内で最も急激に人口が減っている町の1つでもある。

そんなロックフォードの寂れた通りを、17歳のキアーと23歳のザックがスケートボードで駆け抜ける。優しく開けっ広げな性格のキアーは、死んだ父のことや、スケボー仲間で自分だけがアフリカ系であることに悩んでいる。母は自室に引きこもっていて、家に帰っても独りぼっちだ。

ザックはカリスマ性のある俺様タイプで、16歳で家を出た。恋人ニーナとの間にはまもなく第1子が生まれる予定だ。行き詰まった現在、ろくに光を見いだせない未来と格闘しながら、2人は一緒に騒ぎ、酒を飲む。

キアーはリューに、死んだ父から暴力を受けていたことを打ち明ける。「その時は泣いた?」とリューが問い掛けると、「ああ、もちろん。おまえなら泣かなかった?」とキアーは返す。「僕だって泣いた」とリューは答える。

リューと2人の間には共通点がいくつもあった。貧しい家庭で育ったこと、スケートボードが好きだったこと......。

撮影開始から1年ほどたって、リューはニーナからザックによる家庭内暴力について聞かされる。その後、ザックは子供時代、悪さをすると父親から「ぶちのめされた」と話す。「(暴力は)親から子への行動の連鎖なのだと気付かされた」と、リューは言う。「すごく納得がいった」

リューは母親に電話をし、自身が義父から受けた虐待についてインタビューしたいと申し入れる。母はリューが5歳の時に中国からアメリカに移住した。監督だけでなく自分でカメラを回して撮影していたリューが、別のカメラマンに撮らせた唯一のシーンだ。

カメラが「セラピスト」

母の表情と自分の表情を別々のカメラで追いながら、2人のトラウマに向き合い処理しようとリューは母に持ちかける。「4年前に母と義父が離婚したときも、母と話し合おうとした」と、リューは本誌に語った。「でも、あまりにつらくて15分も続かなかった。カメラの存在のおかげで、やっと対話ができた」

カメラはザックにとってもセラピストのような役割を果たした。酒浸りのザックとニーナは派手な口げんかを繰り広げる。ニーナの体には、ザックに殴られたという傷が残っている。ザックはニーナへの虐待を否定し続けるが、映画の終盤、リューにこう語る。「女を殴るのは駄目だ。だがビッチはひっぱたかなけりゃならないこともある」

<関連記事:三浦春馬さんへの「遅すぎた称賛」に学ぶ「恩送り」と「ペイ・フォワード」
<関連記事:世界に誇るべき日本の「ウナギのかば焼き」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、メルコスルとのFTA締結承認 反対くすぶる

ビジネス

FRBは今後もデータに基づき決定、ゴールドマンのチ

ビジネス

フォルクスワーゲン、25年中国販売3位転落 吉利汽

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、1月予想以上に改善 底打ちの兆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    筋力はなぜパワーを必要としないのか?...動きを変え…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中