最新記事

災害

米西部の大規模火災が凶暴化、35人が犠牲に 被害面積は東京都の6倍、その原因と予防策は

2020年9月15日(火)18時42分

米西部カリフォルニア、オレゴン、ワシントン各州では、8月以降に発生した多数の山火事により、被害面積が500万エーカー(160万ヘクタール)を超え、幾つかの小さな町が壊滅的な打撃を受け、数千件の住宅が損壊し、少なくとも35人が犠牲となっている。写真はオレゴン州デトロイトで、山火事によって破損した消防車(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

米西部カリフォルニア、オレゴン、ワシントン各州では、8月以降に発生した多数の山火事により、被害面積が500万エーカー(160万ヘクタール)を超え、幾つかの小さな町が壊滅的な打撃を受け、数千件の住宅が損壊し、少なくとも35人が犠牲となっている。

この地域では、乾燥と間伐されない樹木の生育過剰が過去何十年もの間に進み、幅広い火災の温床になった。一方で火災は件数が増えているだけでなく、より凶暴化して被害を大きくしている。

森林管理のずさんさか気候変動の影響か

トランプ大統領は、主に育ち過ぎた樹木の伐採をしなかったという森林管理の不手際が火災件数増加と火の勢いが強まった理由だと主張。被害が大きいカリフォルニア、オレゴンの両州知事は、気候変動が大きな原因だとの見解だ。

科学者はいずれの要素も関係していると話す。

1900年代初頭以降、積極的な取り組みによって山火事が抑えられ、かえって森林地帯に枯れ木などがたまる結果になった。このことが、より大規模かつ火勢が強く、大々的な被害をもたらす火災を助長する形になっている。

ただ気温上昇や、乾燥と不規則な降雨といった気候変動も引き金と言える。カリフォルニア大学サンディエゴ校クリップス海洋学研究所のダン・キャヤン氏は「われわれは気候変動の影響を過小評価したいと思わない。なぜならその影響は既に相当大きく、将来もっと増大するからだ」と述べた。

どのような気象条件が今年の火災につながったか

この地域は直近の冬が比較的乾燥したままで、森林が乾き切っていたところに、8月になって極端な熱波に見舞われた。この時点で一帯は燃えやすい環境にあった。さらにカリフォルニア南部特有の「サンタアナ」や北部の「ディアブロ」として知られる猛烈な局地的な風が、火災を急速に広げた。

また乾燥でキクイムシがまん延し、カリフォルニアだけで1億5000万本の樹木が枯れ、すぐに燃える大量の「薪」が生まれていた。

キャヤン氏は「これら全てが、いったん発火した場合に火勢がかなり広がってしまう環境を形成している」と指摘した。

カリフォルニアでは降水量が非常に乏しかったところに、雷雨に伴う落雷も急増。8月半ばには、たった1日での落雷が6000回近くと過去最多を記録した。

カリフォルニア州の森林保護・防火局によると、これまでに同州で最も壊滅的な被害を与えた火災10件のうち9件が過去10年間に発生した。火災リスク軽減を目的とする最新の森林管理技術が出てきたにもかかわらずだ。

大規模火災に強い森林づくりに向けた取り組みは

カリフォルニア州は、間伐や手入れが必要な森林が約1500万エーカーあるとしている。こうした作業達成のため、同州は先月、連邦政府の農務省森林局との間で年間100万エーカーの森林整備を進める協定に調印した。

同州は今年、延焼を防ぎ、火災リスクの高い地域の住民を守ることを目指し、森林地帯に空白地帯を設けて自然のバリアとする緊急プロジェクト35件を実行したという。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?


20200922issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月PCE価格、前年比2.3%上昇 個人消費支出

ビジネス

中国人民銀、経済状況に応じて効果的に政策対応 金融

ビジネス

利下げ今年2回予想、一時停止の可能性も=ミネアポリ

ビジネス

ドイツ政府委、最低時給の段階的引き上げ勧告 27年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中