最新記事

感染症

カリフォルニア州でペスト感染者が確認──犬と散歩中、ノミに噛まれて

2020年8月25日(火)16時45分
松岡由希子

ペストは中世ヨーロッパの人口の約3分の1の命を奪った...... royaltystockphoto-iStock

<8月17日、カリフォルニア州で、北東部エルドラド郡サウス・レイク・タホの住民がペストに感染したことが明らかとなった......>

ペストは、ペスト菌の感染によって起きる人獣共通感染症(動物から人へ、人から動物へ伝播可能な感染症)である。ネズミなどの齧歯類を宿主とし、主にノミによって伝播されるが、ペットとして飼育されている犬やネコがペスト菌に感染したノミを屋外から家庭に持ち込み、感染が広がるケースもある。

通常、感染から7日以内に発症し、発熱や吐き気、倦怠感などの症状が現れる。早期に発見できれば抗生物質で治療できるが、適切な治療が行われなければ、致死率は30%〜100%と極めて高い。

2010年から2015年で、3248人が発症し、584人が死亡

14世紀に発生したパンデミック(世界的大流行)では、欧州で5000万人以上が死亡した。世界保健機関(WHO)によると、2010年から2015年までに世界全体で3248人がペストを発症し、584人が死亡。アフリカのコンゴやマダガスカル、南米ペルーで地域的流行がみられる。

米国では、1900年に初めてペスト感染者が見つかって以来、2012年までに1006名の感染者が確認されている。この数十年では、年間の平均感染者数は7名程度だ。

8月17日、カリフォルニア州でペストに感染

カリフォルニア州では、2020年8月17日、北東部エルドラド郡サウス・レイク・タホの住民がペストに感染したことが明らかとなった。

犬と散歩している際、ペスト菌に感染したノミに噛まれたとみられ、医療従事者の看護のもと、自宅で療養し、回復に向かっている。カリフォルニア州でペスト感染者が確認されたのは、2015年8月にヨセミテ国立公園でペスト感染者2名が確認されて以来、5年ぶりだ。

カリフォルニア州公衆保健局(CDPH)は、齧歯類のペスト菌への感染状況を定期的にモニタリングしている。2016年から2019年までのエルドラド郡でのサーベイランスでは、ジリスやシマリスなど、20匹の齧歯類がペスト菌に曝露していることが確認された。

ペスト菌は、カリフォルニア州の多くの地域に存在する

エルドラド郡の公衆衛生担当官ナンシー・ウイリアムズ博士は「ペスト菌は、エルドラド郡の標高の高い地域を含め、カリフォルニア州の多くの地域に存在する。屋外では、自身とペットの予防に努めることが重要だ。野生の齧歯類がいるエリアでのウォーキングやハイキング、キャンプの際は、特に気をつけてほしい」と呼びかけている。具体的には、リスやシマリスなどの齧歯類に餌をやらない、衰弱した齧歯類や齧歯類の死体に触らない、ペットをこれらに近づけない、といったことが挙げられている。

ペストへの感染リスクには、人と齧歯類との接触のほか、干ばつなどの気象も関与している可能性がある。人獣共通感染症を専門とするカリフォルニア大学デービス校のブルーノ・ショメール教授は、オンライン科学メディア「ライブサイエンス」において「干ばつによって食料が不足し、齧歯類が餌を求めてキャンプ場などに侵入する可能性がある。また、高温はノミが好む環境だ」と指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中