最新記事

BOOKS

相模原障害者殺傷事件、心底恐ろしい植松聖死刑囚の姿勢

2020年8月14日(金)11時40分
印南敦史(作家、書評家)

まず、被告の偏った価値観を代弁する部分がここにある。「責任能力があると診断されたことについてどう思うか」とは、被告の責任能力についての問いである。ところが被告の「責任能力がなかったら死刑にすべきです。人間じゃないから、心失者ということです」という返答では、"責任能力のない対象"が殺された障害者にすり替わってしまっている。

しかも以後のやりとりを確認する限り、本人は「すり替えよう」としたのではなく、「すり替わっている」ことに気づいていない。そんなことよりも、持論を展開することにしか意識が回っていないのだ。堂々としている割には一貫性がなく意味不明な主張は、そのことを確信させる。

その証拠に、自分に科せられたはずの殺人罪についての答えにおいても主客が転倒する。


――殺人罪について、どういう認識か
 人間はやり直せると言いますが、立ち直らない人間もいます。社会的不幸が多々あります。それがなくなれば、死刑もなくなるし、犯罪もなくなります
――どういうことか
 凶悪犯は、親に捨てられたり虐待を受けたりするなど、かわいそうな話が世の中にたくさんあります。そういうことを経験すると、心失者になってしまいます
――起こした事件については、そういった社会的不幸が基になっているのか
 世界が戦争状態だったからです。不幸だから戦争をしている。私は子どもと女性を守るため、それから大金持ちになるために事件を起こしました
――子どもと女性は、なぜか
 子どもと女性は不幸を受けやすいからです
――大金持ちになるというのは、なぜか
 社会貢献をすればお金をもらえると思っていたんですが、虫が良すぎましたね。甘かったです。心失者は莫大な利権を持っています。それを壊すとなると、命を使わないといけない。リンカーンも国民(奴隷)を解放しましたが、それなりの報復は受けるのかな、と思っています
――つまり、起こした事件は社会のためだったが、いいことをしても反対派が出てきて報復を受けてしまうという認識か
 はい(61~62ページより)

死刑判決が確定した後の2020年4月2日(つまり最近である)の面会時の答えまで、一貫してこの論調が崩れることはない。だから読んでいると、少なからず頭が混乱してしまう。

明るく社交的、クラスのリーダー的存在だったらしいが


交際女性の証言
 女性は2014年8月ごろ、被告から電車内で声をかけられ、LINEのIDを交換。2日後に被告の家に行き、交際が始まった。
 被告は友人が多く、女性との予定が入っていてもドタキャンが多かった。「もう少し一緒にいる時間を作りたい」と話すと、「友達との時間を割いてまでお前と会う時間を作るつもりはない」と言われた。衝撃で涙が止まらず、そのまま別れた。同年冬ごろのことだった。
 被告から連絡があり、1年後の15年冬から事件発生まで2度目の交際をした。(163~164ページより)

【関連記事】人殺しの息子と呼ばれた「彼」は、自分から発信することを選んだ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン

ワールド

ガザで米国人援助スタッフ2人負傷、米政府がハマス非

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師、攻撃後初めて公の場に 

ワールド

ダライ・ラマ「130歳以上生きたい」、90歳誕生日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中