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人殺しの息子と呼ばれた「彼」は、自分から発信することを選んだ

2018年10月17日(水)16時50分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<あまりに凄惨で報道規制が敷かれた「北九州連続監禁殺人事件」の犯人の息子が、テレビ局に電話をかけてきた。そしてプロデューサーは「彼」にインタビューを行うことになる......>

『人殺しの息子と呼ばれて』(張江泰之著、KADOKAWA)は、「北九州連続監禁殺人事件」の犯人の息子との対話、そこに至るまでの経緯、"その後"のことなどをフジテレビ『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーである著者が明らかにしたノンフィクション。

2017年10月15日に前編が、22日に後編が放送されて大きな反響を呼んだ『ザ・ノンフィクション 人殺しの息子と呼ばれて...』の内容を、後見人への取材などを追加して書籍化したものである。

主犯格の松永太と緒方純子が、純子の父母、妹、義弟、姪、甥、知人を殺害したこの事件については、いまさら説明する必要はないかもしれない。監禁して金を巻き上げ、食事・排泄制限、拷問、通電による虐待によってマインドコントロール下に置き、被害者同士で殺害および死体処理を行わせたというもの。あまりに凄惨な事件であったため、当時から報道規制が敷かれていたことでも知られている。

では、なぜ著者は、松永と緒方の長男である「彼」と出会うことになったのだろうか? きっかけは、著者が企画の立案から制作までの全責任を負うチーフプロデューサーとして制作した『追跡!平成オンナの大事件』という番組でこの事件を扱ったことだった。彼が、それを見て抗議の電話をかけてきたのだ。


 彼は切り出した。
「あなたに言いたいことがたくさんあります」
「なんでしょう?」
「なぜフジテレビは、あんな放送をしたんですか。納得がいきません。事件からずいぶん時間が経って、ようやく風化しつつあるというのに......。おかげで俺のことがネット上で叩かれていて困っています」
「というと......」
「ふざけないでください。ネット上では、俺のことを人殺しの息子なのだから、ろくでもない奴にちがいないだとか、消えてなくなれ、とか書かれています。どうしてくれるのですか?」(中略)
 攻撃的な言葉を口にすることはあったが、理路整然と彼は話し続けた。その冷静さからも、電話の向こうの彼に、私はどこかでその父親、松永太の姿を重ねていた。(「序章 生きている価値」より)

かくして著者は、「殺人者の息子」として25年を生きてきた彼と対面し、インタビューを行うことになる。

人間関係が複雑なのだが、松永は緒方と男女の関係になっていく過程において、別の女性と結婚して子供をつくっていたのだという。高校の同級生だった松永と緒方が再会したのは1980(昭和55)年で、松永が別の女性と結婚したのは1982年。その翌年、その女性との間に長男が生まれている。

ちなみにその女性とは、1992年に離婚が成立している。順子が自分の長男である「彼」を産んだのは1993年1月だというので、前妻の長男と彼との間に接点はない。

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