最新記事

テロ

フィリピン連続爆弾テロ実行犯、かつての自爆犯の妻か娘? IS系テロ組織犯行声明との情報も

2020年8月26日(水)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

比人テロリストの妻かインドネシア人か

フィリピン治安当局は26日までに1件目を含めて自爆テロ実行犯は2人とも女性の可能性があるとの見方について否定できないとしている。それによると、2019年6月にスールー州で自爆テロを実行したノーマン・ラスカ容疑者、同年11月に軍との交戦で死亡したタルハ・ジュムサ容疑者という2人の男性テロリストの妻2人が今回の自爆テロを実行した可能性が浮上しているというのだ。

一方でフィリピンのシンクタンクや陸軍関係者は地元ラジオ局に対し、2件目の自爆テロ犯の女性はインドネシア人女性である可能性があるとの見方を示した。

2019年1月27日に今回テロがあったホロ市内のキリスト教会で起きた連続自爆テロ事件(18人死亡、82人負傷)ではインドネシア人夫妻が実行犯とされている。この2人はインドネシアのテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」との関係があり、フィリピンに密入国して「アブ・サヤフ」と連携してテロを実行したとされている。

シンクタンクによると、この実行犯夫妻に娘がいて、その娘が今回の自爆テロ犯である可能性を指摘しているという。

爆弾製造の専門家の関与も指摘

治安当局では今回自爆テロに使用された爆弾、特に1件目の爆弾は非常に威力が強い強力爆弾だったことから「アブ・サヤフ」の爆弾製造担当者として知られるムンディ・サワジャン容疑者の関与を強く示唆している。

サワジャン容疑者をめぐっては2020年6月29日にホロ市内で同容疑者らの捜査に向かう途中の陸軍諜報部の私服兵士4人がテロリストと誤認されて追跡された警察官9人に射殺される事件も起きている。この事件も勘違いによる偶発的な事件なのか、テロ組織と気脈を通じた一部警察官による計画的犯行なのか、事件の真相はいまだに明らかになっていない。

首都マニラも厳戒態勢

ホロ市内での24日の連続爆弾テロ事件を受けてマニラ首都圏でも25日から軍や警察によるテロへの警戒態勢が強化されている。

陸軍のソベハナ司令官は25日、ホロ市だけでなくスールー州全域で犯行に関わった可能性が極めて高い「アブ・サヤフ」に対する捜索活動を続けていることを明らかにするとともに、地元ラジオ局に対して「スールー州全域に戒厳令を布告する必要がある」との考えを示した。

戒厳令を布告する権限のあるドゥテルテ大統領はこれまでのところ戒厳令に関しては言及していないが、25日にレニー・ロブレド副大統領は爆弾テロを強く非難し「コロナウイルスによるパンデミックの最中に起きた恐るべき事件である。国民の健康、国の経済が悪化している今、さらにダメージを与えるような事案に対しては断固として正義を実現させなくてはならない」とテロに対する政府の強い姿勢を示した。

コロナウイルス感染に関してフィリピンは8月6日にそれまで最悪だったインドネシアを抜いて感染者数では東南アジア諸国連合(ASEAN)のトップになった。また死者数ではまだインドネシアに次ぐ2番目ではあるが、政府による段階的な防疫地区の設定、衛生保健ルールの厳格化、ルール違反者への罰則強化など、あの手この手の感染拡大対策もあまり成果を挙げていないのが実状だ。

そうした最中の連続爆弾テロ発生という治安悪化で、欧州連合(EU)、米政府、英政府などからも「テロ非難」が表明されており、早急な対処がドゥテルテ政権に求められる事態となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・韓国、新型コロナ第2波突入 大規模クラスターの元凶「サラン第一教会」とは何者か
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の

ビジネス

アングル:米アマゾン、オープンAIとの新規契約でク

ワールド

ウォール街、マムダニ氏の「アフォーダビリティ」警戒

ビジネス

訂正マネタリーベース、国債買入減額で18年ぶり減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中