最新記事

温暖化

地球温暖化は+4.8℃の最悪シナリオへまっしぐら?

'If RCP8.5 Did Not Exist, We'd Have to Create It' For 2050 Climate Change

2020年8月4日(火)14時25分
ハナ・オズボーン

温室効果ガスの排出量はRCP8.5とほぼ一致 Ekaterina_Simonova-iStock

<科学界でも否定的な見方があるIPCCの「最悪の想定」が短期的には最も正確な予想だと米科学者らが主張>

米科学者らは8月3日、米国科学アカデミー紀要に新たな研究報告を発表。気候変動が地球にもたらすリスクについて、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が提示した「最悪のシナリオ」が、今後30年のリスクを最も正確に評価しているとの見解を示した。21世紀を通じて温室効果ガスの排出量が増え続けると想定するIPCCの「RCP8.5シナリオ」のことだ。

ウッズホール研究所(マサチューセッツ州)のクリストファー・シュワルム率いる研究チームが発表した報告は、温室効果ガスの排出量を(特に短期間にわたって)追跡する上で、「RCP8.5シナリオ」が重要な意味を持つ理由を説明している。

IPCCは、温室効果ガスの排出量とそれを削減するための対策について、複数のパターンに基づく気候変動の予測シナリオを提示。それが代表的濃度経路(RCP)と呼ばれるシナリオだ。このうち最も楽観的な「RCP1.9シナリオ」は、2100年までの地球の平均気温の上昇を、産業革命の前と比べて1.5℃未満に抑えることを目指す内容だった。RCP8.5シナリオは最悪のケースを想定した内容で、2100年までに地球の平均気温が2.6℃~4.8℃上昇すると見込んでいる。

否定するのは「偏った考え方」

研究チームはRCP8.5シナリオについて、最近では否定的な見方もあり、科学者の中にも「人騒がせ」で「人々を誤った方向に導く」シナリオだと指摘する声があると説明している。1月に科学誌ネイチャーに掲載された解説記事は、同シナリオについて「起こる可能性が低い最悪の想定」と捉えるべきだと主張した。ブレークスルー研究所(カリフォルニア州)の気候およびエネルギー問題担当ディレクターであるゼキ・ハウスファーザーは、当時BBCに対して、同シナリオが作成された2005年以降、状況は大きく変わっていると語っていた。「当時、現実になる可能性が10%に満たないとされた最悪の想定は、今ではきわめて可能性が低い想定だ」

だがシュワルムと同僚の科学者たちは、RCP8.5シナリオを否定することは「残念なだけでなく、偏った考え方だ」と主張する。報告書の中で彼らは、現在の二酸化炭素の累積排出量の実態とRCP8.5シナリオの誤差は1%未満だと指摘。また2050年までに気候変動によってもたらされるリスクを評価する上でも、実態やこれまでに表明されている政策と「最も合致した」正確なシナリオがRCP8.5だと説明した。

<参考記事>地球温暖化:死守すべきは「1.5℃」 国連機関がより厳しい基準を提言
<参考記事>地球温暖化が生む危険な「雑種フグ」急増 問われる食の安全管理

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中