最新記事

報告書

地球温暖化:死守すべきは「1.5℃」 国連機関がより厳しい基準を提言 

2018年10月11日(木)19時10分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

近年は、日本でも「ゲリラ豪雨」や記録的な集中豪雨が増えている。今夏も大雨の被害が相次いだ 撮影:内村コースケ

<現在のペースで地球温暖化が進めば、2030〜52年に世界の平均気温が産業革命前と比べて1.5℃上昇するー。『国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』が今月8日、世界に向けて警鐘を鳴らす特別報告書をまとめた。さらに上昇幅が2℃に達すると、地球環境と人間社会は壊滅的な打撃を受けると警告。この「1.5℃」のラインを死守するのが私たちの世代の責任となりそうだ>

たった0.5℃の違いで被害は半分程度に

IPCCは、世界中の専門家で作る気候変動に関する研究の収集・分析を行う政府間機構で、今回のいわゆる「1.5℃報告書」は6000に及ぶ研究成果を元にまとめられた。温暖化の影響を測るワーキンググループの共同代表、デブラ・ロバーツ氏は、1.5℃と2℃のたった0.5℃の違いが地球環境に与える影響の差は「間違いなくあり、しかも大きい」と語る。パリ協定が2016年に定めた地球温暖化対策の国際ルールでは、気温上昇を産業革命時比で「2℃未満、できれば1.5℃未満」に抑えることを目標にしているが、IPCCの結論は、1.5℃を死守すべきというものだ。

気温上昇を1.5℃に抑えた場合、2℃上がった場合と比べて以下のような違いがあるという。


・作物の受粉に影響を与える昆虫・植物の生息域の減少が半分に抑えられる
・食料不足の深刻な影響を受ける人が数百万人単位で少なくなる
・水害の被害に遭う人口が50%少なくなる
・海面上昇幅が10cm抑えられ、2100年までにその影響を受ける人口は1000万人減る
・2 ℃上昇するとサンゴ礁がほぼ全滅するが、1.5℃であれば10%以上生き残るチャンスがある
・海水の酸性度上昇と酸素濃度の低下による漁獲高の減少幅が、約半分に抑えられる
・永久凍土が融解する面積を日本列島の6倍以上に当たる250万平方キロ分抑えられる

各国は、パリ協定に基づき、温室効果ガスの削減目標を定めているが、参加国全てが目標を達成したとしても、2030年時点での温室効果ガスの排出量は、2℃上昇レベルよりも二酸化炭素に換算して110億から135億トン多くなる見込みだ。

つまり、ある程度の被害を覚悟して壊滅的被害を抑えることを目標にしても、現状の削減目標ではまったく不十分だということになる。英・グランタム気候変動研究所のボブ・ワード氏は、IPCCの「1.5℃報告書」すら「非常に保守的だ」と、危機感をつのらせている。

2050年までにCO2の排出をゼロに

では、最低でも1.5℃の目標を達成するには何が必要か?具体的には、2030年までにCO2の排出量を45%カットし、2050年までにゼロにしなければならない(2℃の場合は2075年)という。IPCCは、それを達成するためのロードマップを複数提示している。例えば、電力では再生可能エネルギーの割合を70〜85%にし、石炭火力発電はゼロに近づけなければならない。併せて、CO2の回収・貯留(CCS)技術などの新技術の実用化が急がれるとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中