最新記事

暴露本

トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

How He Gets Away With It

2020年7月29日(水)17時40分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

しかし最も興味深いのは、この「施設」でドナルドの世話をしている面々の描写だ。妻メラニアや子供、弁護士や銀行家、ウィリアム・バー司法長官やマイク・ポンペオ国務長官、そして娘婿のジャレッド・クシュナー。本来なら私たちをドナルドから守れたはずなのに、そうしないでいる人たちへの痛烈な評価だ。

王様は裸だと知りつつ、彼らは恥も外聞もなくドナルドをおだて、祭り上げてきた。なぜなのか。

答えは本書の後半に用意されている。彼女は書く。祖父フレッドは息子ドナルドがペテン師であることに気付いていたし、そもそもフレッド自身が公金を食い物にして懐を肥やし、脱税で子供たちを太らせる詐欺師だったと。

だからこそ祖父フレッドは、息子がカジノ経営で大失敗したときも裏で助けてやった。「フレッドはドナルドの成功という幻想にあまりに多くを注ぎ込んだので、ドナルドから離れられなかった」。メアリーはそう書いている。

この評価は、2016年大統領選挙でトランプ陣営の選対本部長だったケリーアン・コンウェイや元大統領補佐官のジョン・ボルトン、メラニアといった面々にも当てはまりそうだ。

こういう面々にいつも守られているから、ドナルド・トランプは決して学ぶことがない。甘やかされ、嘘を聞かされ、称賛されるばかりだから、自分は何をしてもいいと思い込んでいる。

そんなドナルドが、いくら負けても勝ち残れるのは、彼の妄想を大事に育ててきた人たちが彼を守るためなら何でもするからだ。彼自身は空っぽだ。だから操るのは簡単だが、途中で放り出すわけにはいかない。そんなことをすれば全ての虚構が明るみに出て、自分たちの道徳的・戦略的な誤りを認めざるを得なくなる。だが、誰だって今さら誤りを認めたくはない。

家族の生き証人として

ドナルドは単なる鏡だ。この男が空っぽなのは、彼を育て、支えてきた人たちが空っぽだから。鏡に映る裸の王様は実のところ自分たちだと、気付かされるのは耐え難い。だから、もう落ちるところまで落ちるしかないと思ってしまう。

最悪だ。メアリーが結論的に書いているように、ここまでくると「真に問題なのはドナルド本人ではない」。本当に問題なのは彼の魂を「暗闇に捨て置く」面々であり、その責任こそ問われるべきだと著者は言う。

【関連記事】劣勢明らかなトランプに、逆転のシナリオはあるのか?
【関連記事】米民主主義の危機 大統領選で敗北してもトランプは辞めない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中