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無防備なシリア難民に迫る新型コロナの脅威──越境支援期間の終了で人道危機に拍車

2020年7月14日(火)16時45分
ケネス・ローゼン(ジャーナリスト)

シリア南部バブアルヌールの国内避難民キャンプで消毒作業を行うシリア民間防衛隊のメンバー(今年3月) Khalil Ashawi-REUTERS

<ただでさえ脆弱なシリア国内の医療体制だが、検査キットなど救命物資を届けるための越境ルートが断たれれば、コロナ拡大は破滅的な結果をもたらしかねない>

シリアへの国境を越えた人道支援を継続するための国連決議2504号は、7月10日に期限切れを迎えた。国連安全保障理事会では先週、2つの決議案が採決されたが、結果はいずれも否決だった。

シリア北西部のイドリブ県では、新型コロナウイルスの最初の感染例が報告された。この地域ではロシアの支援を受けたバシャル・アサド大統領の政権軍が大規模な攻勢に出ている。このままでは、政権軍に包囲された300万人以上の人道危機がさらに深刻化する恐れがある。

2014年から毎年更新されてきた越境人道支援の継続を決めた国連決議2504号が採択されたのは今年1月。その後の交渉では、医療や教育を含む人道支援のために国境のどの地点を、どの程度の期間開放するかが議論の焦点になってきた。

ベルギーとドイツが共同提案した決議案はトルコ・シリア国境の検問所2カ所を1年間開放するというものだったが、中国とロシアが拒否権を行使。ロシアは開放する検問所を1カ所に絞る提案を行ったが、米英独仏などが反対に回り、7対4で否決された。

WHOは6月、イドリブ県に2000個のコロナウイルス検査キットを送っていたが、今月9日になって最初の感染例が確認されたと、シリア反政府勢力側が発表した。

トルコの南東部ガズィアンテプにあるWHO支部の責任者マフムード・ダヘルはAFP通信に対し、患者はシリア・トルコ国境の町バブ・アル・ハワの病院で働いている医師だと語った。

この地域は医療体制が脆弱で、政権軍は繰り返し医療施設を攻撃している。多くの人々が暮らすのは手狭な国内避難民用キャンプだ。

「生存に不可欠な支援物資を送るためには、国境の開放継続が極めて重要だ」と、アムネスティ・インターナショナル国連代表部の責任者シュリーン・タドロスは声明で述べた。「数百万人のシリア人にとっては飢えるかどうか、病院にとっては、命を救うための物資があるかどうかの問題。ロシアと中国の拒否権乱用は下劣で危険な行為だ」

緊急援助団体CAREが4月に実施した調査によれば、この地域では水、下水設備、医療廃棄物管理、衛生、環境浄化設備などがひどく劣悪な状態にある。10数カ所の避難民キャンプのうち、汚物処理施設が利用可能なのは10%にすぎない。

トイレが設置されている避難民キャンプは55%で、平均240人が1つの仮設トイレを共用している。水が常時利用可能なキャンプは全体の37%だけで、83%のキャンプは手洗い場がない。

【関連記事】教育も未来も奪われて働くシリア難民の子供たち

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