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保守思想が力を増すスウェーデン──試練の中のスウェーデン(中)

2020年7月10日(金)11時25分
清水 謙(立教大学法学部助教) ※アステイオン92より転載

表1でも見たように、社会民主党の議席数は落ち込み、世論調査でも支持率は歴史的な大幅下落に陥っている。特に支持率の急落が激しいのは、社会民主党の票田であったはずの鉄鋼・金属業で栄えた北部地域で、逆にスウェーデン民主党の支持が急上昇しているのもまた北部地域である。

二〇一八年議会選挙の三大争点は、医療、移民、学校教育であったが、スウェーデンの国土の半分を占める広大な北部地域では、産院や病院、歯科の閉鎖など医療サービスの削減は深刻な問題であった。特に、難民危機に見舞われながらルヴェーン政権は増税と緊縮を進めたが、財政厳しい中で移民/難民にリソースが充当される余波を北部地域が最も受けている状況では、社会民主党離れが進むのも無理はなかった。いまのスウェーデンでは、かつて理想として語られたような充実した無償の医療、サービスハウスと呼ばれた高齢者ホームはもはや遠い過去のことである。スウェーデン民主党が理想とする社会は非ヨーロッパ圏からの移民/難民が少なく、豊かな時代であった一九六〇年代に求められるが、復古的に「国民の家」を基調とするスウェーデン人優先型の福祉国家を唱える同党がいまや有権者にとって有力な投票先となっている。

これは北部地域、あるいはスウェーデン民主党の地盤である南部地域に限ったことではない。選挙前の世論調査では、有権者の三六%が移民問題についてはスウェーデン民主党が最善の政策を打ち出していると答えている。また二〇二〇年に入ってから行われた最新の調査でも、いまやスウェーデン民主党が他の既成政党を抑えて最も支持を集めている政党となっている。これまでスウェーデン民主党に防疫線を張っていた既成政党の中からも、穏健連合党やキリスト教民主党のようにスウェーデン民主党との対話に踏み出す動きも見られるようになっている。このまま進めば、スウェーデン民主党が政権の一翼を担う可能性も出てくるであろう。

[注]
(1)LO加入者の投票先のデータは、SVT:s Vallokalsundersökning.Riksdagsvalet 2018, s.24.による。

※第1回:スウェーデンはユートピアなのか?──試練の中のスウェーデン(上)

※第3回:ロシアの脅威と北欧のチャイナ・リスク──試練の中のスウェーデン(下)に続く。

清水 謙(Ken Shimizu)
1981年生まれ。大阪外国語大学外国語学部スウェーデン語専攻卒業。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(国際関係論コース)にて、修士号取得(欧州研究)。同博士課程単位取得満期退学。主な著書に『大統領制化の比較政治学』(共著、ミネルヴァ書房)、『包摂・共生の政治か、排除の政治か─移民・難民と向き合うヨーロッパ』(共著、明石書店)など。

当記事は「アステイオン92」からの転載記事です。
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アステイオン92
 特集「世界を覆う『まだら状の秩序』」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
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