最新記事

心理

「『終末もの』を好む人はパンデミックへの心構えができている」ってホント?

2020年7月9日(木)17時34分
松岡由希子

実際のパンデミックに対して、より心構えや準備ができていた? xalanx-iStock

<米シカゴ大学らの研究によると、「終末もの」映画ファンは、心理的レジリエンスが高く、心構えや準備もよりできていたという...>

未知の感染症の脅威とパニックを描いた2011年のアメリカ映画「コンテイジョン」のように、爆発的に流行する疫病や大規模な自然災害、宇宙人の侵略、ゾンビの出現などによって文明や人類が絶える様子を描く「終末もの」の映画を好んで見る人は、心理学的に新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に対して、実践面や精神面で、より備えられていたことが明らかとなった。

パンデミック以降、不安や憂鬱、イライラ、不眠があったか

米シカゴ大学、デンマーク・オーフス大学らの研究チームは、戦争や自然災害などの非常事態に日頃から備えている人、すなわち「プレッパー」にちなんで「終末もの」の映画を「プレッパー映画」と称し、「『プレッパー映画』のファンは実際のパンデミックに対して、より心構えや準備ができており、心理的レジリエンス(回復力)があるのではないか」との仮説のもと、米国人310名を対象にアンケート調査を実施した。

調査結果をまとめた未査読の研究論文は、心理学のプレプリント・レポジトリ「サイアーカイブ」で2020年6月30日に公開されている。

このアンケート調査では、ホラーやゾンビ、超常現象、宇宙人の侵略、コメディー、ロマンスなど、10の映画ジャンルについて嗜好度をたずね、これらのジャンルに分類される実際の映画やテレビ番組への感想も聞いた。そのうえで、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにどのくらい備えられていたかを自己評価させ、パンデミック以降、不安や憂鬱、イライラ、不眠があったかについても答えてもらった。

その結果、「プレッパー映画」のファンは、心理的レジリエンスが高く、心構えや準備もよりできていた。また、「プレッパー映画」は見ていないが、ホラー映画を好む人は、パンデミックへの心構えや準備はそれほどなされていなかったものの、心理的レジリエンスは高かった。

「自分の体験としてとらえて学んでいる」

研究チームは、これらの結果をふまえ、「ゾッとするような恐ろしいフィクションを見ることは、現実世界の状況に対処するうえで有益な方策を訓練する機会になっているのではないか」と考察している。

研究論文の筆頭著者でシカゴ大学の博士課程に在籍するコルタン・スクリブナー氏は、英紙ガーディアンの取材において「いい映画であれば、映画の中に自分が引き込まれ、登場人物の視点に立つことで、無意識のうちにそのシナリオを稽古している状態になる」とし、「人々は自分の体験としてとらえて学んでいるのだろう。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、トイレットペーパーといった一部の例外を除き、何を買って備えるべきか、よく知っていたようだ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コンゴ・ルワンダ、米仲介の和平協定に調印 鉱物巡る

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中