最新記事

タイ

国王の一声で停止されたタイの「不敬罪」は、いつ復活してもおかしくない

2020年7月2日(木)19時30分
デービッド・ハット

不敬罪の一時停止を政府に要請したことで国王の権力はむしろ強まる ATHIT PERAWONGMETHA-REUTERS

<言論の自由が十分に保障されていないタイで、検閲的性格を帯びる不敬罪の一時停止は朗報と見なされていいはずだが......>

最近バンコク・ポスト紙に掲載された記事は、こんな言葉で始まっていた。「国王陛下の大権により不敬罪が一時停止されたことは、特筆すべきことである」

要するに、タイでは非民主的な法律が、非民主的に設けられ、非民主的に執行されてきたが、その法律がいま非民主的に一時停止された、ということらしい。

6月中に明らかになった不敬罪の一時停止を歓迎すべきニュースだと考える人もいるだろう。近年はあまり適用されていなかったが、この法律の下、ワチラロンコン現国王や王族を中傷したり、侮辱したり、敵意の対象にしたりした人物は、最高で15年、最低でも3年の禁錮刑が科される場合がある。

タイのように言論の自由が十分に保障されていない国では、検閲的性格を帯びる法律の適用が停止されれば、普通は朗報と見なされるはずだ。

しかし、結論を早まらないほうがいい。あなたがタイの民主活動家なら、不敬罪の適用が続くほうがまだましだと思うかもしれない。不敬罪の一時停止は、国王の権力を弱めるものでもなければ、市民の自由を拡大するものでもないからだ。

不敬罪が適用されなくなったとしても、言論の自由は改善しない。タイには、「コンピューター犯罪法」など、検閲のために用いることができる法律がほかにもある。つまり、不敬罪がなくなっても、同じ発言を理由に投獄される可能性はなくならないのだ。

不敬罪の一時停止は、いま起きていることから目をそらさせる手段になっている。プラウィット副首相は先頃、ある王政転覆運動グループについて、通常以上に徹底した捜査を行っていると明らかにした。「(メンバーの)名前がリストアップできれば、起訴する」と述べている。

忘れてはならない点がある。国王が政府に要請した結果として不敬罪の一時停止が実現したということは、国王が政府に要請すれば、いつでも不敬罪を復活させられる。

以前も似たようなことがあった。プミポン前国王は2005年、不敬罪を適用しないよう政府に求めていた。しかし、バンコク・ポストによれば、2006年以降、不敬罪の摘発件数は700件以上に跳ね上がった。

これまでタイにおける不敬罪の扱いは、政治環境によって変わってきた。その点、今の状況は現政権にとって楽観できるものではない。現政権は2014年の軍事クーデターで政権を奪取したが、昨春の総選挙では辛うじて政権を維持したにすぎない。

【関連記事】闇に消される東南アジアの民主活動家たち
【関連記事】タイ新国王が即位しても政情不安は解消されない

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゲイツ財団、エプスタイン氏への金銭支払い否定 職員

ワールド

米下院、カナダ関税撤廃決議案を可決 トランプ氏に異

ワールド

カナダ学校銃撃、容疑者は元生徒の18歳女 警察が身

ワールド

中国、英アストラゼネカ元幹部を起訴 24年に当局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 9
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中