最新記事

新型コロナ対策

スウェーデンの悪夢はパンデミック以前から始まっていた

The Failure Started Before the Pandemic

2020年7月1日(水)16時40分
カールヨハン・カールソン

また、モデリングによればストックホルム県での感染者の割合は20~25%とみられるが、同地域での調査で抗体が確認されたのは人口の7.3%だけだった。新型コロナの抗体獲得については、まだ不明点が多い。だが、例えば無症状患者には抗体が作られないなどが事実であれば、ワクチン開発まで経済の崩壊を眺めながら延々とロックダウンを続けるのとは、別の道を考えるべきだろう。

コロナ対策を考える上で、不確かな要因はまだまだ多い。だが、現時点でも判断可能なことの1つは、社会的な弱者の保護策が成功したかどうかだ。6月1日時点で、国内の老人ホームで暮らす70歳以上の高齢者の2036人が新型コロナ感染で死亡している。自宅で専門ケアを受ける高齢者も1062人が死亡した。

しかしテグネルは4月24日、英BBCのインタビューで「ロックダウンで老人ホームへの感染拡大を防げたかどうかは疑問」だと語っている。

だが彼の主張は、簡単に入手できるデータに基づく、ごく基本的な所見を無視している。「恐らくロックダウンは多くの老人ホームで施設内の感染拡大を減らすのに役立った」と、ボストン大学の疫学者エレノア・マリーは指摘する。その要因はウイルスが施設内に持ち込まれるかどうか、持ち込まれた場合どのように拡大するかの2つだという。

ストックホルムでは老人ホームのスタッフの40%が短期・時給契約の未熟練労働者、23%が臨時雇用だ。彼らは若く、複数の仕事を掛け持ちし、他人との接触が多く感染のリスクが高い。ロックダウンしていれば、彼らがバーやバスの車内で感染するリスクは減らせたはずだ。

しかしスウェーデン当局は施設への訪問禁止と、医療・安全・衛生面での勧告という限定的アプローチを選択。禁止するのが遅過ぎ、かつ、政府の指針に従うだけのリソースも訓練も不足していた。

社会民主主義の使命は?

政府が4月1日にようやく訪問禁止に踏み切ったときには既にストックホルムの3つのホームの1つで感染が拡大。低賃金労働者(普通は大家族で公共交通機関で通勤する)の感染リスクは明らかだった。政府の勧告に従わない人々が出てくるのも目に見えていた。協調的なお国柄とはいえ、若くて健康に自信のある人たちが親や祖父母に会いに行かないと思うのは幻想にすぎない。

4月末までに当局は失敗を認めた。「高齢者を守れなかった。非常に深刻で社会全体にとって失敗」だとレーナ・ハレングレン保健社会相は語っている。

2月時点で、公衆衛生庁は国内の感染拡大のリスクは(パニック拡大のリスクに比べて)小さいと主張。当局は備えは「現状では」十分だと市民に請け合ったが、誰もが信じたわけではない。

【関連記事】スウェーデンが「集団免疫戦略」を後悔? 感染率、死亡率で世界最悪レベル
【関連記事】スウェーデンの新型コロナ感染者数が1日最多に、死亡率も世界屈指

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中