最新記事

フードファイター

理論上10分間で食べられるホットドッグの量は? 世界記録は、いよいよその上限に 

2020年7月16日(木)18時00分
松岡由希子

世界記録もいよいよ限界か......75本で優勝したジョーイ・チェスナット氏  REUTERS/Andrew Kelly

<フードファイターのようにトレーニングを通じて特殊な能力を身につけた人が10分間に食べられるホットドッグの量は、理論上、84本であることがわかった......>

米国のホットドック専門ファストフードチェーン「ネイサンズ」が主催する「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」は、1916年の独立記念日に4人の移民がホットドッグの早食いを競い合ったことが起源とされ、1972年以降は毎年、独立記念日に、ネイサンズの創業の地であるニューヨーク・ブルックリンのコニーアイランドで開催されている。2020年大会では、ジョーイ・チェスナット氏が10分間にホットドッグ75本を食べ、世界記録を更新して5連覇を達成した。

理論上、84本。世界記録は、いよいよその上限に近づいている

スポーツ医学を専門領域とする米ハイ・ポイント大学のジェームス・スモリガ博士が2020年7月15日に英国王立協会の学術雑誌「バイオロジー・レターズ」で発表した研究論文によると、フードファイターのようにトレーニングを通じて特殊な能力やスキルを身につけた人が10分間に食べられるホットドッグの量は、理論上、84本であることがわかった。チェスナット氏の世界記録は、いよいよその上限に近づいていることになる。

スモリガ博士は、制限時間が10分と定められた1980年大会および1982年大会から2019年大会までの計39年分のデータをもとに、非線形モデルと一般化極値(GEV)分布を用いて、ヒトが1分間で活動的に食べ物を消費できる量、すなわち「ACR」を算出し、その上限が832グラムであることを示した。また、現代のフードファイターのACRは、優勝者の記録が10本程度であった1980年代初めに比べて5倍上昇していることもわかった。

フードファイターの「S字カーブ」は極端だ

一般的に、スポーツ選手の改善曲線は、最初はゆっくりと着実に上昇し、ある時点で急速に伸びて、やがて横ばいになる「S字カーブ」を描く。ホットドッグのフードファイターにおいても、同様のパターンがみられるが、そのカーブはより極端だ。

hotdogeatingcurve.png

ネイサンズの有名なネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権の勝者が食べた量。黒丸は10分の競技を表し、四角は12分の競技を表す (Smoliga, Biology Letters, 2020)

大会参加者が増え、専門のトレーニング技術が取り入れられるようになったことで、フードファイターたちの消化管には驚異的な可塑性が認められた。たとえば、チェスナット氏は、2005年時点で1分間にホットドッグ267グラムしか飲み込むことができなかったが、2018年にはその量が740グラムに増えている。

大量の食料をすばやく摂取する能力を身につけるにはトレーニングが必要だが、これによって身体の機能障害を引き起こすおそれがある。スモリガ博士は、この研究論文において「一般的なスポーツ選手に比べて、フードファイターのパフォーマンスの向上率ははるかに高いが、これを達成するために体内で起こる生理的適応が消化機能障害につながる可能性がある」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米企業、来年のインフレ期待上昇 関税の不確実性後退

ワールド

スペイン国防相搭乗機、GPS妨害受ける ロシア飛び

ワールド

米韓、有事の軍作戦統制権移譲巡り進展か 見解共有と

ワールド

中国、「途上国」の地位変更せず WTOの特別待遇放
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 9
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中