最新記事

中英関係

若者は資格なし? 英国民になれる香港人の条件とは

Many Hong Kongers On Course to Become British

2020年6月8日(月)17時35分
ユアンイー・チュー(オックスフォード大学政治学講師)

イギリス植民地時代の香港の旗を振る民主化デモの参加者 TYRONE SIU-REUTERS

<中国政府による強権的な国家安全法の適用で揺れる香港住民に、英首相が市民権の大盤振る舞いを示唆。保守派や専門家もこれを歓迎しているが、その実態は一筋縄では行かない>

中国政府が香港を「本土並み」に扱う気なら、イギリスは香港人に「本国人並み」の待遇を与えようじゃないか。

本土の強権的な「国家安全法」を香港にも適用するという中国側の一方的な決定を受け、猛反発する香港人への共感と連帯の証しとして、ボリス・ジョンソン英首相は英国史上「最大級のビザ制度改革」を打ち出した。海外在住英国民(BNO)の資格を有する香港人には無条件で1年間(現行は半年)の本国滞在を認め、ゆくゆくは永住権や市民権(国籍)の取得にも道を開こうというものだ。

移民の大量流入に対する拒否反応がEU離脱の決定につながったことを思えば、なんとも皮肉な話だ。首相提案は最大約300万人の英国移住を可能にするものだが、今のところ保守派や専門家もこれを歓迎している。

だが、そもそもBNOとはいかなる資格なのか。当初の新聞報道では、対象者は30万人程度とされていた。しかしこの数字は、現にBNOパスポートを所持している人の数にすぎず、その申請資格を有する人はずっと多い。

また「英国民」と「英国市民」の違いも、よく理解されているとは言い難い。そこには大英帝国の歴史が深く関わっている。もともとBNOという資格は、地球の裏側からわざわざ海を越えてイギリスに来たがる人はほとんどいないという前提で設けられた(この前提、香港ではとっくに崩れ去っている)。

元来、大英帝国の領内に住む人のほとんどは、どんな人種であれ英国王室の「臣民」だった。征服王ウィリアムの時代からイギリスに住む生粋のロンドンっ子も、大英帝国の植民地インドから一歩も出たことのない異教徒も同じ臣民。それが建前だった。

だから大英帝国が香港を植民地とした翌年の1843年に香港の漁民がイギリスに渡って土地を買っていたら、その人物はイギリス貴族の男性と同様に選挙権を行使できたはずだ。ただし現実には、非白人のBNOが英国本土に移り住むことは、歓迎も奨励もされなかった。

しかし20世紀には植民地の解放が進み、独立する国も増え、BNOの位置付けは複雑になっていった。まず、英連邦(コモンウェルス)の加盟国に共通する市民権というものが試行された。加盟国それぞれの市民であると同時に、大英帝国の臣民でもあるという資格だ。

所詮は「二級市民」

扱いところが、思いのほかに非白人BNOの移住が多かった。そこで1962年、英国本土とアイルランドに地縁血縁のないBNOの移住を制限する措置が導入された。この措置は9年後に緩和され、祖父か祖母が当該地域の出身なら移住できることになったが、非白人が実質的に締め出される事情に変わりはなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第1四半期営業利益は前年比8倍増見込

ワールド

米民主党議員2人がキューバ訪問、トランプ政権の石油

ワールド

米原油先物が急伸、ホルムズ海峡巡るトランプ氏の警告

ワールド

FAA、航空管制官研修生2300人の採用を要求
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中