最新記事

サミット

G7ならぬ「D10」がトランプと中国の暴走を止める切り札

Forget the G-7, Build the D-10

2020年6月11日(木)19時10分
エリック・ブラッドバーグ(米カーネギー国際平和財団欧州プログラム主任)他

英政府が提唱するD10はサイズも形態も理想的だ。まとまりがつかないほどの大所帯ではなく、一定の影響力が持てる規模で、メンバーは冷戦時代の「西側諸国」のみ。とはいえD10は「反中国同盟」ではない。多かれ少なかれ、全ての民主主義国が頭を悩ませ、自国だけでは解決できないと感じている2つの問題、5Gとサプライチェーンに的を絞った枠組みだから、話し合いも比較的まとまりやすいと思われる。また、この枠組みには、中国とあからさまに覇権を争う国と抑制的な姿勢で付き合う国の両方が加わるため、それぞれの戦略的な弱点を補い合える。アメリカを除く国々は米中対立の激化を警戒しているから、将来的な緊張の高まりを抑える効果も期待できる。

今のイギリスは新たな枠組みを主導するには最適なプレーヤーだ。ジョンソン首相は今年1月時点では、トランプの圧力に屈せず、ファーウェイの市場参入を容認する姿勢を見せていたが、その後方針を転換。中国政府が香港の民主化運動を取り締まるため「国家安全法」の香港への導入を決定すると、旧宗主国として自由を求める香港市民に「避難場所」を提供する意向を表明した。

実はイギリスのファーウェイ容認は、米英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国の機密共有ネットワーク「ファイブアイズ」の結束を揺さぶっていた。英情報機関がファーウェイ製品を使用するなら、情報共有はできないと、イギリスを除く4カ国が警戒感を示していたのだ。だがジョンソンがファーウェイ排除に舵を切ったおかげで、この問題は解決した。

英ジョンソン首相も救われる

D10は、ブレグジット後のイギリスの進むべき道として、ジョンソン政権が提唱しているものの、いまだ海のものとも山のものともつかない「グローバルなイギリス」構想に明確な輪郭を与える枠組みともなる。そのためには来年早々にもロンドンで第1回サミットを開催するべきだろう。

ブレグジットで生じたEUとのわだかまりを解消するためにも、ジョンソン政権は事前にフランス、ドイツと調整を重ね、共同提案を練り上げる必要がある。また、議題によってはスペイン、オランダ、スウェーデン、ポーランドなどG7以外のEU加盟国も招待するべきだろう。こうした形態はサミットの枠組みとして定着するはずだ。フランスが議長国を務め、ビアリッツで行われた2019年のサミット でも、格差問題を話し合うためインド、オーストラリア、セネガル、ルワンダなどG7以外の国々も招待された。

第1回D10の中心的なテーマは何よりもまず、官民の連携を通じて、コスト効率と技術的な信頼性の両面でファーウェイに代わり得る5G整備を実現することだろう。また、トランプ政権流の保護主義やデカップリング(切り離し)に陥ることを避けつつ、原材料や部品の調達先や生産拠点の配置を見直し、中国に集中していたサプライチェーンを分散化させることも、価値観を共有する10カ国の重要な課題となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとカナダ、関係改善へ新ロードマップで合意

ワールド

仏、来年予算300億ユーロ超削減へ 財政赤字対GD

ビジネス

PayPayが12月にも米でIPO、時価総額3兆円

ビジネス

英議員、中ロなどのスパイの標的 英情報機関が警告
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中