最新記事

サミット

G7ならぬ「D10」がトランプと中国の暴走を止める切り札

Forget the G-7, Build the D-10

2020年6月11日(木)19時10分
エリック・ブラッドバーグ(米カーネギー国際平和財団欧州プログラム主任)他

11月の米大統領選の結果にかかわらず、イギリス主導のD10は、EUにとっても、アメリカと付き合う上で頼りになる枠組みとなるはずだ。EU にとって、民主主義国のグループであるD10は一種の「保険」となり、これがあれば、5Gとサプライチェーン問題でトランプ政権と建設的な協議がしやすくなる。その証拠に、人口知能(AI)の利用について、G7で共通の倫理基準を策定するというフランスの提案をトランプはあっさり受け入れた。トランプはまた、5Gのセキュリティリスクについて、EUが評価指針を定めたことも評価している。

もしも米大統領選で民主党の指名候補ジョー・バイデン前副大統領が勝てば、EUは気候変動対策と多国間の貿易交渉についても、D10を通じて米政府に新たな作業グループの結成を呼びかけられる。

バイデンが勝った場合、D10はバイデンの外交政策の課題である安全保障、腐敗、人権に関する国際的な作業グループの立ち上げにも役立つはずだ。そうなれば、D10はかつてのG7に匹敵するか、それを上回る国際的な影響力を持つ枠組みとなる。

中国が着々と覇権拡大を進めるなか、大西洋と太平洋をまたいで民主主義の国々が結束する意義は明らかだ。一方で、ただの「おしゃべりの場」ではなく、核心的な問題に的を絞って、限定的な行動を起こすことを目指すD10が発足すれば、勝ちか負けかのゼロサム思考で一国主義的に中国に対抗しようとするアメリカに歯止めをかけることもできる。

ブレグジット後も、イギリスの出番はなくなったわけではない。かつての覇権国家イギリスは外交巧者の名に相応しく、今こそ民主主義の国々を結ぶ橋渡し役を果たすべきだ。NATOの初代事務総長を務めたヘイスティングズ・イスメイが1949年に打ち出した有名な戦略がある。いわく「ソ連を締め出し、アメリカを引き入れ、ドイツを抑え込む」。それに倣えば、D10の戦略はさしずめ「中国を締め出し、インドを引き込み、アメリカを落ち着かせろ」だろう。

From Foreign Policy Magazine

20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中