最新記事

韓国社会

元慰安婦に告発された支援団体の「腐敗の構図」

“Justice” in Question

2020年5月25日(月)16時00分
前川祐補(本誌編集部)、朴辰娥(ソウル)

magw200525_SouthKorea3.jpg

スキャンダル発覚後もソウル市内の日本大使館前で続けられている日本政府に対する抗議活動 YONHAP NEWS/AFLO

昨年、著書『反日種族主義』で一躍脚光を浴びた韓国の李栄薫(イ・ヨンフン)元ソウル大学教授は5月11日、新著の出版記者会見で「挺対協の運動は神聖不可侵の権威として君臨してきた」と語った。実際、挺対協は過去にはその政治力を遺憾なく発揮し、日韓の慰安婦政策に介入してきた。

1991年に慰安婦が日韓の外交問題化してから8年後の1999年、未来志向を掲げた金大中(キム・デジュン)政権が発足。そのリベラルな姿勢で日本との外交関係を改善した金には慰安婦問題の解決にも大きな期待が寄せられたが、結局何も成し遂げられなかった。

挺対協ら女性市民団体が歴代大統領夫人と強いパイプを持ち、金大中のファーストレディーだった李姫鎬(イ・ヒホ)もその「圧力」から自由になれず、夫も影響を受けたからだとされる。

1995年、挺対協は日本の民間人から元慰安婦らに対する償い金を募った「アジア女性基金」にも深く関与する。基金に反対の立場だった挺対協を含む女性団体は償い金を受け取った元慰安婦らを激しくバッシングし、この事業を頓挫させた。

そもそも挺対協をはじめとする女性団体は反日組織ではない。戦争における女性に対する犯罪の解決という、より大きな目的を掲げた活動団体だ。ベトナム戦争で韓国軍兵士が現地人女性を性的に蹂躙した問題に対しても強烈な批判を続けている。韓国の保守層から敵対的にみられるのはそれ故だ。

ただ「女性の権利」を掲げ、大統領でさえ抑制の利かない不可侵な存在になれば、監視の目は緩む。本人たちの意識も変わる。

こうした批判に対して正義連の呉は、「全く違う。私たちは(リベラル政権だった)盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代でも、元慰安婦のための保護施設を探すのに苦労した」と、その影響力を否定する。

だが、2015年に締結された慰安婦をめぐる日韓合意が文在寅(ムン・ジェイン)政権誕生後に「破棄」された背後にも、挺対協の影響力があった(そもそも挺対協が「正義記憶財団」と統合したのは発言力を高めて日韓合意に対抗するためで、2018年1月に尹は大統領府に招かれている)。挺対協自身に認識がなくとも、結果的に韓国政府の外交に多大な影響を及ぼしている。

尹の「ワンマン体制」

「腐敗の構造」を埋める最後のピースは尹の支配欲かもしれない。

興味深いのは、今回この問題を指摘したのが正義連の「スポークスマン」とも言える左派系のハンギョレ新聞だったことだ。

5月18日付の記事で、ハンギョレは尹の団体運営手法を辛辣に批判している。山奥に住む元慰安婦にわざわざ会いに行った挺対協発足当時の尹の労苦をいたわりつつも、いつしか組織を占有し「事実上の丼勘定で運営してきた」と指摘。さらに「他人を信頼しておらず情報も共有していない」など、尹のワンマン体制を暴露した内部関係者の話も伝えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ディズニー、第4四半期売上高は予想に届かず 26

ワールド

ウクライナ、いずれロシアとの交渉必要 「立場は日々

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中