最新記事

韓国社会

元慰安婦に告発された支援団体の「腐敗の構図」

“Justice” in Question

2020年5月25日(月)16時00分
前川祐補(本誌編集部)、朴辰娥(ソウル)

正義連のトップだった尹を告発した元慰安婦の李 YONHAP NEWS/AFLO

<支援者の寄付金を不正に流用してきた──だけではない。いま韓国で、正義連(前身は挺対協)が内紛と不正運営疑惑に揺れている。衝撃の暴露があぶり出す神聖化された組織の深い闇とは>

慰安婦問題は、今も日韓の重要外交課題の1つだ。その解決のために両政府が試みた数々の政策に対して強大な影響力を行使してきた韓国の慰安婦支援団体が最近、内紛と不正運営疑惑に揺れている。

事の発端は元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)による突然の告発だった。自分を含む元慰安婦たちを支援してきた「日本軍性奴隷問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)による寄付金の使途が著しく不透明で、かつ自らはその恩恵を受けていないと、団体のトップだった尹美香(ユン・ミヒャン)に反旗を翻したのだ。

この暴露を契機に正義連の不正疑惑が次々と明らかになっている。

数百万円相当の寄付金を1日でレストランでの飲食に使ったと過度に粉飾して帳簿に記載/「元慰安婦の憩いの場」として購入した不動産物件は当初の目的で使われることがほぼなかったのに管理費として尹の父親に数年間で約650万円が支払われた/正義連発足後も、前身の韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が以前の名義で政府から補助金を受けていた──。

元慰安婦の支援を目的とした一介の市民団体に、なぜこれほどの不正会計や横領の疑惑が持ち上がったのか。事実だとすれば、それを可能にした要因は何だったのか。腐敗の構造を探ると、カネと権力とワンマン体制を備えた「政治団体」の輪郭が浮かび上がってくる。

非営利法人の緩い規制

不正会計疑惑が起きた1つの要因は、市民団体を含む非営利法人に対する韓国の緩い会計制度だ。

韓国・寄付文化研究所の資料によれば、非営利法人に関する韓国の法制度は「後進国レベル」で、「30〜50年前の法律が適用されている」。公益法人会計基準が2年前にようやく制定されたが、なぜか寄付金で運営される非営利法人は情報の公開義務や外部監査の対象から外れる団体が多い。そのため、寄付金の使途を詳細に把握できないことがある。

非営利法人の会計に詳しい公認会計士の崔浩潤(チェ・ホンユン)は「国税庁のウェブサイトに公開される非営利法人の年間の予算書や決算書は一部でしかない」と話す。「寄付者はそれが全てだと思っているだろうが、そうではない」

magw200525_SouthKorea4.jpg

不正会計疑惑を受けて正義連の事務所へ家宅捜索に入る検察 YONHAP NEWS/AFLO

一方、正義連の呉性希(オ・ソンヒ)人権連帯処長は、不正会計疑惑をこう釈明する。

「韓国の非営利法人の労働環境はどこも劣悪だが、私たちは(保守勢力から)名誉毀損で訴えられたりして業務が増える。そうした状況で人手不足も相まって会計ミスがあったことは認める」

「会計ミス」だけで全ての疑惑が説明できるかは、家宅捜索に入った検察が明らかにするだろう。ただ、問題は会計制度だけではない。正義連とその前身の挺対協が、その強大な政治力ゆえに活動や存在が聖域化したことが背景にある、との指摘がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧米小売、インフレ下でも有名人起用や価格

ビジネス

日経平均は4日ぶり反落、一時800円超安 利益確定

ビジネス

午後3時のドルは154円半ばへじり安、日銀利上げを

ワールド

イスラエル26年度国防予算、停戦にもかかわらず紛争
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中