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全人代「香港国家安全法案」は米中激突を加速させる

2020年5月25日(月)11時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

説明の冒頭で先ず「如何に外国の敵対勢力が中国の内政干渉を侵し、香港の治安を乱しているか」ということが強調された。

この敵対的外国勢力とは、もちろんアメリカのことである。

香港の国家安全法に関する問題はどこにあるかを正確に把握するためには、香港特別行政区基本法(以下、基本法)の第23条に何が書いてあるかを知らなければならない。

基本法第23条には以下のように書いてある。

――香港特別行政区は反逆、国家分裂、反乱扇動、中央人民政府転覆、国家機密窃取のいかなる行為をも禁止し、外国の政治的組織または団体の香港特別区における政治活動を禁止し、香港特別行政区の政治的組織または団体の、外国の政治的組織または団体との関係樹立を禁止する法案を自ら制定しなければならない

この「法案を自ら制定しなければならない」という文言が最も重要なのである。

今般の全人代は、昨年の「逃亡法改正案」で失敗しており、香港政府が法改正をしようとしても香港市民の激しい抗議に遭い、可決できないことを嫌というほど知っているため、香港政府がダメなら中国大陸の中央政府が決定してしまおうという計算なのである。

2003年の基本法第23条改正案撤廃とSARS

実は2002年9月、当時の国家主席だった江沢民は香港政府に「国家安全法を制定せよ」と命じた。

2002年11月に開催される第16回党大会で、江沢民は中共中央総書記から退かなければならない。2003年3月に開催される全人代では国家主席の座も、既に中共中央総書記に選出された胡錦涛に譲ることになっている。

一方では江沢民が大陸で強烈に弾圧した法輪功学習者たちが、当時はまだ自由が認められていた香港で言論と信仰の自由を求めて抗議デモを展開していた。抗議デモと言っても静かに公園などに座り込んで意思表示をするやり方である。天安門前に1万人の法輪功学習者たちが座り込んだ時には、江沢民が脅威を感じて排除し、時の国務院総理・朱鎔基が法輪功側を擁護したことにも江沢民は業を煮やしていた。

したがって胡錦涛政権に何としてもより多くの江沢民の配下を送り込み、法輪功を潰そうと躍起になっていた。

折しも中国広東省では当時の新型コロナウイルスが引き起こしたSARSの流行が始まっていた。

しかし江沢民は香港政府に何としても国家安全法を制定させようと躍起になっていたし、SARSのことは次期政権である胡錦涛政権の責任にしてしまおうと、発表を遅らせたが、2003年2月にはWHOの知るところとなった。

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