最新記事

医療

「緊急事態解除の日」遠い医療現場 他院が拒否した新型コロナ患者受け入れる聖マリアンナ病院の葛藤

2020年5月23日(土)14時31分

ICUの収容能力は限界

正午過ぎ、前の晩からの徹夜勤務を終えた森川大樹医長は、東棟のコンクリート階段を上り、壁に大きなスクリーンがかかる会議室に入った。各科の責任者が、ここで新型コロナへの対応状況を報告し合う。

感染した疑いのある患者2人について、やり取りが始まった。「2人ともマイナス(陰性)でした」。「じゃぁ、もうロールアウト(一般病棟に移す)して大丈夫?」

「1人は大丈夫なんです」と森川医長が答える。「けれど、もう1人は濃厚接触者といた人なので、すぐには除外できません」。

会議を主催していた藤谷センター長が、その1人をセンターに残すという指示を出した。

森川医長は会議が終わると、カラフルな表を広げて見せてくれた。新型コロナの治療に当たる自身のチームを含めたICU内の勤務シフトだった。

「はじめは救急(担当チーム)だけでやっていたんだけど、パンクしてしまうということで、外科とか循環器内科とか(他の担当部門)から4人入れているんです」と森川さん。

「現在は最大で15人のコロナの患者を診る体制でこうなっているので、これ以上増やすというのには限界があると思う」

ある時、ICUの能力すべてを新型コロナ患者に集中するべきではないか、という議論もあった。しかし、その提案は通らなかった。

「コロナじゃない他の患者はどこが診るのか。そういう問題もあった」と、森川医長は話す。同センターでは新型コロナの重症者向けの15床に加え、地域の医療機関として果たさなければいけない役割がある。2月以降、コロナ患者に対応しながらも、心臓発作や脳卒中などの重症患者も診療している。

家族との別れはiPad越し

病棟の扉の外で、診療看護師の小波本直也さんが大きなため息をついていた。

「もう終わりが見えない」と、1カ月前に新型コロナ対応チームに加わった小波本さんは患者のことを語り始めた。

「良くならないんですよ。治療反応がない。挿管したら8割が亡くなるというデータもありました。だけど、どうしてもこの患者さんは(ご家族に)つなげてあげたいと思うんです」

医師が患者の最期が近いことを察知すると、小波本さんは家族に電話をかけ、病院に呼ぶ。家族は患者の側には行けないが、iPadのアプリ越しに声をかける。

手袋を二重にはめ、フェイスシールドとマスク、ビニール製ガウンを重ね着した小波本さんは、もうすでに意識がない患者にiPadを近づける。家族は思い出を共有し、最後の別れを告げる。

「お父さんは頑張っていますよ、早く帰れるように頑張っていますよ、とご家族の皆さんには伝えます」。小波本さんは息を引き取りつつある患者に語り続けた。

担当医師が死亡診断を下す様子もiPadで遺族に伝える。最後の別れをしたいと希望する遺族には、小波本さんが亡くなった人の写真を自分の携帯で撮影して送ることもある。

故人が飾っていた家族の集合写真を見たり、家族との手紙を通して「(その患者が)どういう人だったのか想像できる。」と小波本さんは言う。「(TV電話などで)患者と家族をつなげられるということが一つの癒しにはなっていますね。」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 9
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 10
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中