最新記事

マスク外交

欧州一の反中国家チェコに迫る中国「マスク外交」

China’s Mask Diplomacy Won’t Work in the Czech Republic

2020年5月22日(金)21時13分
ティム・ゴスリング(ジャーナリスト)

中国から送られた医療品100トンを運び出すチェコ軍兵士(3月22日、パルドゥビツェ) Josef Vostarek/REUTERS

<マスク不足を足掛かりに、長らく関係が冷え込んでいたチェコへの影響力拡大を狙う中国。EUとNATOの加盟国であるチェコを通じて西側の結束を揺るがす狙いだ>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の発生以降、中国がイメージアップのための「マスク外交」に力を入れているのは周知の通りだ。中国は新型コロナウイルスの発生源である上、当初、感染拡大の事実を隠蔽して世界中にウイルスをばら撒いたと非難されているためだ。なかで特別の注目を集めているのが、中国とは疎遠になっていた中欧・チェコ共和国の出方だ。

3月、中国から医療用品を運んできた航空機がプラハの空港に到着すると、アンドレイ・バビシュ首相をはじめとするチェコ政府の当局者たちが滑走路に並んだ。チェコでは、医療従事者のためのマスクや手袋などの個人用防護具(PPE)が不足して批判が高まっており、中国からの物資到着はバビシュを苦境から救ってくれるものだった。長年中国との関係強化を模索してきたミロス・ゼマン大統領もこの面目を一新。3月19日の演説では、「我々を助けてくれたのは中国だけだった」とEU(欧州連合)に当てこすりを言ってみせた。中国からはその後も物資が届けられた。

ゼマンの言葉は、チェコとの関係改善を狙う中国指導部を喜ばせたに違いない。だが外交筋は、中国がチェコに対する影響力を取り戻すのは難しいかもしれないと示唆する。チェコ外務省のある高官によれば、チェコが西側の同盟諸国から「信頼に足るパートナー」だと評されているのは、「中国と長期間に渡って関係が冷え込んでいる」せいでもある。中国と関係を改善すれば、西側と疎遠になりかねない。

中国の狙いはチェコ市場などではない

中国が改めてチェコとの関係を重視し始めたことを、チェコは警戒している。4月に漏えいしたチェコ外務省のある報告書は、中国がパンデミックを利用して国際社会での影響力増大を狙っていると指摘。EU加盟国、とりわけ中東欧の加盟国の支持を得ることによって影響力を強め、西側諸国を分裂させようとしていると警告した。

報告書が特に注目したのは、中国の習近平国家主席が主導する「17+1」イニシアチブだ。中国はギリシャなどバルカン諸国を含む中・東欧17カ国との首脳会議「17+1」で、巨大経済圏構想「一帯一路」建設に向けてこれらの国への投資を約束。アナリストたちは、中国の最終目的は中東欧の小規模経済国へのアクセスを得ることなどではなく、その影響力を利用して西側の国際機関を不安定化させることだと指摘する。

「チェコは地政学的な位置づけや技術革新といった観点からは、さほど重要な存在ではない」と、プラハを拠点とするシンクタンク「アソシエーション・フォー・インターナショナル・アフェアーズ」のイバナ・カラスコバは言う。「チェコの価値は、EUとNATOの加盟国であるところにある。中国は私たちを利用して、これらの欧州機関に影響力を行使したいのだ」

<参考記事>欧州で強まる反中感情
<参考記事>「中国製の人工呼吸器は欠陥品」イギリスの医師らが政府に直訴状

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

海運大手マースク、スエズ運河から迂回 紅海周辺情勢

ビジネス

米1月PPI、前月比0.5%上昇に伸び加速 関税転

ビジネス

ネトフリ株一時9%超上昇、ワーナー買収断念の意向を

ビジネス

今年の米経済は「力強さ増す」、新企業成長で雇用創出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石が発見される...ほかの恐竜にない「特徴」とは
  • 4
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    習近平による軍部粛清は「自傷行為」...最高幹部解任…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 9
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中