最新記事

イギリス

無症状の医療従事者の3%が新型コロナに感染、爆発的な院内感染の予備軍か

3 Percent of Staff At U.K. Hospital Unknowingly Had COVID-19, Testing Shows

2020年5月14日(木)16時55分
メーガン・ルース

防護服を着て救急車から患者を降ろす英NHSの医療従事者たち(3月26日、ロンドン) Hannah McKay-REUTERS

<何らかの症状がある医療従事者だけにPCR検査を行う今の態勢のままでは推定1万5000人の感染者を見逃してしまう。全員に定期的な検査を行うべきだと、英ケンブリッジ大学が警告>

英ケンブリッジ大学は5月12日、新型コロナウイルスに関する新たな調査報告を発表。それによればイギリスでは大勢の医療従事者が、自分でも気づかないうちに職場で同ウイルスに感染している可能性があるという。

研究チームは4月6日から24日にかけて、ケンブリッジにあるアデンブルックス病院で調査を行った。その結果、イギリスが誇る国営医療サービス、NHS(国民保健サービス)のスタッフ1032人のうち3%が、無自覚のまま新型コロナウイルスに感染していることが分かった。感染が判明したスタッフの5人に1人は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の患者によくみられる症状を一切経験していなかった。

「COVID-19の症状の条件に合う人だけに注目すると、どうしても症状がほとんどないか全くない人が見逃されてしまう」と報告書は指摘した。「新型コロナウイルスの市中感染が減ってきている今、このことは特に重要な意味を持つ。今後、院内感染が感染拡大の中心地になる可能性があるからだ」

イギリスでは13日までに22万9705人が新型コロナウイルスに感染し、2万7496人の死亡が報告されている。ガーディアン紙は、これまで国内で少なくとも100人の医療従事者が同ウイルスに感染して死亡したと報じており、政府当局者によればそのうち少なくとも27人がNHSのスタッフだった。

コロナ対応では感染率3倍

世界のほかの多くの国と同じように、イギリスでもPCR検査の実施件数は検査キットの不足のためまだ限られている。マット・ハンコック保健相は4月下旬、検査数を増やしていく計画を発表。取り組みの一環として、全てのNHSスタッフが検査を受けられるようにするとした。だが医療従事者の検査については、依然として「症状がみられる人」に重点が置かれており、ケンブリッジ大学の研究者たちは、無症状の感染者がウイルスを拡散するのを防ぐためには、医療施設でもっと多くの検査を行う必要があると指摘した。

研究チームによれば、COVID-19患者の治療が行われているエリアをはじめ、病院内でもよりリスクが高いエリアで働いているNHSスタッフは、マスクや医療用ガウンなどの個人用防護具(PPE)を使用していても、感染リスクが3倍高かった。イギリスをはじめ世界中の多くの病院でPPEが不足するなか、医療従事者が自分でも気づかないうちに新型コロナウイルスに感染している可能性は高く、NHSスタッフだけでも推定1万5000人が感染している可能性があるという。

<参考記事>有用なガイドラインは存在しない──ばい菌だらけの医師スマホと院内感染の関係
<参考記事>イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人主義

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中