最新記事

感染症対策

「人命と経済」、米国が直面する新型コロナウイルス対策の難問

2020年4月4日(土)16時17分

米ミネソタ州でコンサルタント会社を営むモリー・ジャングバウアーさんは、新型コロナウイルスの影響で観光事業者の顧客からの収入が減り、従業員150人のうち30人を解雇せざるを得なくなった。写真は、ニューヨークに入った米海軍の病院船(2020年 ロイター/Mike Segar)

米ミネソタ州でコンサルタント会社を営むモリー・ジャングバウアーさんは、新型コロナウイルスの影響で観光事業者の顧客からの収入が減り、従業員150人のうち30人を解雇せざるを得なくなった。彼女は新型コロナ感染症を発症したニューヨーク在住の娘を案じてもいたが、一方で、ミネソタ州が無期限に外出を禁じて経済が停滞することは「不可逆的な」悪影響をもたらしかねないと懸念している。

このため同州のティム・ウォルツ知事が前週、当面の「計画」を示し、安堵感が広がった。今は商業・社会活動を厳しく制限するが、5月4日までに経済を再開すると知事は発表。「経済的な制限に関する一定の期限を知ることができてうれしい」とジャングバウアーさんは語る。

一部エコノミストの予想では、経済封鎖により米国の国内総生産(GDP)は25%がそれ以上縮小し、失業は数千万人に及ぶ可能性がある。

数千万人の失業および数兆ドルの経済損失とてんびんに掛けて、本来救えるかもしれない人命を犠牲することが許容されるのか――。米国の政治家らは今、この問いに頭を悩ませている。

トランプ大統領は、いったん4月12日までに経済活動を再開すると宣言した。だが、今月29日になって撤回し、目標を4月30日に延ばした。

トランプ氏の顧問、スティーブン・ムーア氏はロイターに対し「ウイルス検査を終えれば経済を再開できる」と述べ、検査拡大が決め手だと強調する。韓国は人口比で米国をはるかに上回る件数の検査を行い、経済を停止させることなく感染者を減らすことができた。米国もここ数週間で検査能力を高めた。

ムーア氏はまた、1)米中西部州でも西海岸や東海岸の州と同様のペースで感染者が増えているのか、2)物流大手フェデックスが実践しているように「社会的距離」を保ちながら勤務を続けられる人をもっと増やせるか――を把握することも重要だとした。

自宅待機を呼び掛け

州や自治体の当局者は、それぞれ独自の算法を講じている。

全米の感染者の約半数が発生しているニューヨーク州のクオモ知事は「われわれは人命をドルに換算しない」と宣言し、あくまで新型コロナ対応を重視する姿勢を示した。

同州に比べ感染者数の少ない州の知事は、死者数と経済損失額の双方の抑制を両立させようと計画を練っている。

ミネソタ州のウォルツ知事は25日、州内で最終的に240万人が感染するとのモデルを示し、現段階で手を打たなければ、ベッドと人工呼吸器の数が足りないため、最悪のケースでは同州で7万4000人が死亡すると警告した。

知事自身、感染者と接触した可能性があるため自主隔離中だ。

ウォルツ氏は、ワクチンが開発されるまで1年以上も経済活動を停止させる余裕は同州にないと説明。2週間は厳格な「自宅待機」命令を課し、あと数週間はそれより緩い命令に切り替えて、病院が受け入れられる準備の時間を稼げるようにする計画を示した。疫学専門家の言う「カーブを平たん化する」戦略だ。

「あと数週間、出歩かないようお願いします」と知事は語りかけた。

州高官らによると、ミネソタ州民の28%は2週間、一時的に職からあぶれる見通しで、うち約40%は有給休暇がないため、これでも厳しい内容には変わりない。

ウォルツ氏は、事業と学校が再開した際には、検査と対象を絞った隔離によって新たな感染を抑制する意向を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中