最新記事

感染症対策

フィリピン、新型コロナウイルス非常事態に首都封鎖+夜間外出禁止令 ドゥテルテ、先手打つ手腕に高い評価

2020年3月14日(土)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大統領自身もウイルス検査受ける

ドゥテルテ大統領は12日に自らも感染の有無を確認する検査を受けた。これは上院議員などと参加していた最近の公式行事に参加していた政府職員の感染が明らかになったという事態を重視し、さらに自身の74歳という年齢にも鑑みて「あくまでも念のため」として感染検査を受けたものだ。

こうした素早い動きは海外渡航歴のない62歳のフィリピン人男性の感染が6日に確認されたことを受け、9日の「公衆衛生の緊急事態宣言」が出されたことにも反映されており、今回の新型肺炎への対応策ではドゥテルテ大統領の政治的リーダーシップが光っている、と評価が高まっている。

習近平主席から書簡「協力を惜しまない」

またドゥテルテ大統領は13日までに中国の習近平国家主席から書簡を受け取ったことを明らかにした。書簡では中国が必要とあればフィリピンが実施している新型肺炎の感染対策に協力を惜しまない旨が記されているという。

こうした中国側の申し出に対しドゥテルテ大統領は「もしそういうことが必要な事態になれば考えることになるだろう」と中国の支援を受け入れるかどうかの明言を避けながらも今後のオプションとしては否定しなかった。

2016年の大統領就任以来、ドゥテルテ大統領は常に80%前後の高い国民からの支持を得ている。国際社会からは人権侵害と厳しい批判を受けている麻薬関連犯罪取り締まりに伴う超法規的措置による殺人なども、国内での批判は限定的に留まっているのが実情だ。

さらに南シナ海の島嶼に関する領有権を争っている中国とも硬軟を織り交ぜた柔軟外交で国民の不満爆発を抑制することに成功しているといえる。

そうしたなかで沸き起こった今回の新型肺炎はまさにフィリピン国民の健康と生命に関わる重大な問題だけに、これまでも示してきた強い指導力と果敢な決断力を発揮することで今のところ国民の期待と負託に十分に応えている。実質的に首都を封鎖するという思い切った決断もドゥテルテ大統領ならでは英断といえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症 vs 人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業のAI導入、「雇用鈍化につながる可能性」=FR

ビジネス

ミランFRB理事、0.50%利下げ改めて主張 12

ワールド

米航空各社、減便にらみ対応 政府閉鎖長期化で業界に

ビジネス

米FRBの独立性、世界経済にとって極めて重要=NY
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中