最新記事

ルポ

さまようアフリカ難民に、安住の地は遠い

Europe’s Harsh Border Policies

2020年3月13日(金)15時30分
サリー・ヘイデン

magw200312_refugee2.jpg

移民の期待は間違いとツイートしたUNHCRのコシュテル。多くは再定住できると言い直した DENIS BALIBOUSE-REUTERS


ルワンダ移送は解決策のように見えて、実は問題が多いと指摘するのは、移民問題を調査しているリビア人のアメラ・マルクスだ。「そもそもリビアで亡命・難民申請者として登録されている4万人のうち、どれだけの人を移送できるのか」

「難民たちは事態を本当に理解して出発したのだろうか。あんな状況で、本当に『自発的』に自分の未来を選ぶことができたのだろうか」と、彼女は問う。「私が同じ境遇でリビアにたどり着き、同じ苛酷な経験をしたとしたら、きっとUNHCRなどの組織を信じ、頼るしかないと思ってしまう」

誰が責任を取れるのか

アムネスティ・インターナショナルのマテオ・デベリスは、難民を安全な場所に移すのは喜ばしいことだが、「恩恵を受けられる人は限られている。リビアに人々を送り返したEU諸国を含め、大多数の国は再定住の場所を提供していない」と語った。

デベリスによれば、この移送プログラムは「状況を悪化させかねない。難民の流入を阻止するためなら、先進国はいくらでも金を出す。だから難民は、ずっと中継国にとどまることになる」。その場合、難民たちの運命は支援金の額で決まるから、安定した未来など望むべくもない。

難民全員の再定住は無理だとツイートしたUNHCRのコシュテルは、1月に発言を撤回。大多数は再定住させるつもりだが、それには1年ほどかかると語った。

UNHCRの広報官エリーズ・ビユシャランに問い合わせると、ルワンダに移った難民たちは再定住先の保証がないことを承知していたという答えだった。「当初は通知が出発直前だった例もあるが、今は2週間ほど前に知らせている」と、彼女は言う。

しかしルワンダにいる難民の受け入れを表明した国は少なく、受け入れ数も少な過ぎる。表明された受け入れ数は合計1150人。「とても需要に追い付かない」と、ビユシャランも認めている。

だったら、疑問は増えるばかりだ。リビアに難民を押し込めようとするEUの政策は正しいのか。どれだけ難民が苦しめば、EUは域内での受け入れに応じるつもりなのか。これが南欧から4000キロ以上も離れたルワンダに送り込まれた難民たちの抱える不安と不満だ。

時には死にたい気持ちになるが、時には希望の兆しも感じていると、アレクスは言った。しかし、リビアで死んだ仲間のことは頭から離れない。

1月に送ってきたメッセージには「もう疲れた」と書かれていた。「私たちは無力。いないも同然の存在だ。私たちはずっと、ここにいるしかないのかもしれない。どうすることもできない」

アレクスは「アフリカはアフリカでしかない」とも繰り返していた。腐敗と抑圧、搾取が横行し、自由もチャンスもないように思えるからだ。でも欧米に行けば、自分たちも「新しい人生を始められる。生き返ることができる」と、彼は信じている。

「私たちが味わった苦しみを本当に理解できる人はいないだろう。どんな苦難にも耐えてきたのは、安全が手に入ると信じればこそだ」と、アレクスは言う。「私たちはUNHCRを信じた。EUも信じた。その結果がこれだ。責任を取ってくれ」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年3月17日号掲載>

【参考記事】ヨーロッパを再び襲う難民・移民危機
【参考記事】史上最高級の国際人、緒方貞子が日本に残した栄光と宿題

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中