最新記事

OPECプラス

ロシアの原油減産拒否の標的は米シェール業界

Putin Targets U.S. Fracking With Oil Price War

2020年3月9日(月)17時55分
ジェイソン・レモン

原油値下げ競争で負けるのはどちらか(2019年6月、大阪で会談したプーチンとトランプ) Kevin Lamarque-REUTERS

<原油価格が急落すれば米シェール業界は利益が上がらなくて弱り、トランプの再選も阻止できる、というのがプーチンの計算?>

新型コロナウイルスの感染拡大により株価が乱高下する中、アメリカ経済にとってさらなる頭痛の種が出現した。

OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアなど非加盟産油国からなる「OPECプラス」は6日、ウイーンで会合を開いた。会合ではサウジアラビア率いるOPEC側が、原油価格の維持のために減産強化を働きかけたのに対し、ロシアは拒否。これにより原油相場は6日、過去5年間で最大の下げ幅を記録した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、価格が大幅に下落してもロシア経済は乗り切れるとの考えを明らかにしたが、専門家の中には、原油価格が年内に20ドルまで下がると予想する向きもある。

ロシアが減産を拒んだのは、価格下落でアメリカのシェールオイル生産者を痛めつけ、ロシアとドイツをつなぐ天然ガスパイプライン建設計画をめぐるアメリカ政府の制裁措置を遅らせるという2つの狙いがあるとの見方も出ている。

「ロシア政府はアメリカのシェールオイル生産業者の行く手を阻み、パイプラインに余計な口出しをしたアメリカを罰するためにOPECプラスを犠牲にすることを選んだ」と、ロシア国立のシンクタンク「世界経済国際関係研究所」のアレクサンドル・ディンキン所長はブルームバーグに語った。

サウジアラビアも値下げを挑んだ

プーチンは8日、財務・エネルギー関連の閣僚の会合で「わが国は新たなシナリオに備える必要がある」と述べたとロシアのテレビ局RTは伝えている。プーチンは、今の状況がどれだけ続くかは不明だとしつつ、ロシア経済はいかなる影響にも対応できると自信を見せたという。

シンクタンク、ジオポリティカル・フューチャーズのジョージ・フリードマン会長は本誌に対し、ロシアが減産に応じなかったのは、どちらかというと新型コロナウイルスによる経済への悪影響と戦うためであって、アメリカを叩こうという意図はなかったと語った。

「サウジアラビアは原油価格の上昇を狙って減産を働きかけたが、ロシアとしては価格が急騰するわけでもないのに応じることはできなかった」とフリードマンは言う。「だがコロナウイルスによる値下げ圧力がある以上、価格は安定しないとロシア政府は計算し、サウジの要請を断ったのだと思う。アメリカに打撃を与える意図はなく、ロシア経済を守ろうとしただけだ」

トランプ政権の下でアメリカは、サウジアラビアとロシアを追い越して世界最大の産油国となった。水圧破砕法を利用したシェールオイルの生産が広まったことが主な理由だ。サウジアラビアは2014年に増産によって原油価格を大幅に下落させることでシェール生産者を潰し、産出量首位の座を奪還しようとしたが失敗。アメリカの原油生産はサウジアラビアが予想するよりすぐに回復した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中