最新記事

地球

血に染まったような赤い雪景色が南極で観測される

2020年3月2日(月)18時50分
松岡由希子

南極の北西部で赤い雪に覆われた...... Andrey Zotov/National Antarctic Scientific Centre of Ukraine/Ministry of Education and Science of Ukraine

<南極半島の北西のガリンデズ島で、血に染まったような赤い雪が一面に広がる珍しい光景がとらえられた......>

現在、夏季の南極では、気温が上昇し、2020年2月13日、南極半島東岸のシーモア島で観測史上最高となる20.75度の気温が観測された。

2月上旬には、南極半島の北西のガリンデズ島にあるウクライナの南極観測基地「ベルナツキー基地」で、血に染まったような赤い雪が一面に広がる珍しい光景がとらえられている。

要因となった「氷雪藻」が、さらに多くの雪を溶かす

ウクライナの国立南極科学センター(NANC)は2月24日、フェイスブックの公式ページに、海洋生態学者のアンドレイ・ゾートフ氏がベルナツキー基地の周辺で数週間前に撮影した「ラズベリー雪」の画像を投稿した。


雪を赤く染めた要因となっているのは「氷雪藻」である。氷雪藻とは、極圏や高山帯で雪や氷上に生息する低温耐性の藻類で、冬は休眠し、春になって雪が溶けると、水と日光を使って繁殖しはじめる。

氷雪藻には、葉緑素のほか、紫外線から自らを保護し、熱を吸収しやすくする色素「カロテノイド」が含まれており、これによって雪が赤く染まる。この現象は「彩雪」や「雪の華」と呼ばれている。

ウクライナの国立南極科学センターでは、フェイスブックの投稿において「『雪の華』が気候変動をもたらす」とコメントしている。熱を吸収しやすい性質を持つ氷雪藻が繁殖することでより多くの雪を溶かし、雪解けの水が増えることで氷雪藻の繁殖がすすみ、さらに多くの雪を溶かすという悪循環に陥るのだ。

氷原の融雪の17%は氷雪藻を含む微生物群集

英リーズ大学が2016年6月に発表した研究論文では「氷雪藻によって雪の反射能(入射光と反射光のエネルギーの比)が最大13%減少する」ことが示されている。

また、米アラスカ・パシフィック大学が2017年9月に発表した研究成果によると、アラスカ氷原の融雪の17%は氷雪藻を含む微生物群集によってもたらされているという。

eagleisland_oli_2020044.jpgNASA

2月4日と13日に撮影されたアメリカ航空宇宙局(NASA)の人工衛星「ランドサット8号」の衛星画像では、今シーズンの南極の記録的な暖かさによって、南極大陸西部のイーグル島の氷冠が溶ける様子がとらえられている。米ニコルズ大学の氷河学者マウリ・ペルト教授は「このような現象は、より頻繁に起こるようになるだろう」との見解を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中