最新記事

フィリピン

新型肺炎で死者が出たフィリピンでドゥテルテと中国への反感が噴出

Anti-Chinese and anti-American conspiracy theories have followed the first death.

2020年2月12日(水)19時26分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

フィリピンでコロナウイルスによる初の死者が発表された翌日、マスクを求める人々が薬局に押しかけた Eloisa Lopez-REUTERS

<コロナウイルスへの対応で国が二分するフィリピン。最初の死者が出て以来、中国に遠慮して対策が遅れたように見えるドゥテルテ大統領への反感と中国に対する積年の恨みは強まるばかり>

フィリピンは2月2日、昨年末に中国中部の武漢市で発生した新型コロナウイルスによる感染者1人の死亡を発表、中国本土以外で初の死亡例となった。このニュースをきっかけに、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領に対する国民的な抗議行動が発生し、中国系の国民に対する長い人種差別という傷がまた開いた。

迅速なウイルス対策に及び腰ともみえるドゥテルテの態度は、中国政府に対する近年の融和姿勢と関係しているとみられており、ハッシュタグ#OustDuterte(ドゥテルテをやめさせろ)がツイッターでトレンド入りした。新型ウイルスの感染拡大は、ドゥテルテ政権に対する国民の信頼を揺るがせているだけではない。もともと緊張をはらんでいた一般フィリピン人とチノイと呼ばれる中国系フィリピン人、そしてフィリピン在住の中国人数十万人との関係を悪化させている。

中国系フィリピン人はフィリピン社会にうまく溶け込んでいるが、比較的裕福であることと、昔からエリート層に食い込んでいることから、折々に反感が向けられることがある。

ドゥテルテは当初、中国人の入国を制限したくないと発言したが、その1日後の1月31日に、感染地域である中国湖北省からの旅行者の入国禁止を発表した。2日後、入国禁止は中国、香港、マカオからのすべての外国人に拡大された。

ウイルスに感染した中国人2人が武漢から香港経由で1月21日にマニラに到着し、フィリピンの3つの州を旅した後に入院したのは1月25日だったから、入国禁止措置がとられたのは感染者の発覚からだいぶ後だったことになる。この中国人2人のうち男性は、2月1日にウイルスが原因で死亡した。

及び腰の対策に広がる怒り

2月7日の時点で、フィリピンでは3件の感染が確認されており、感染の可能性がある215人が監視下にある。

入国禁止措置が取られる前から、政府に対する反発は激しくなっていた。フィリピン国民は感染が国内に広がることを心配していたが、フランシスコ・デュケ保健長官は、中国の観光客の入国を一時的に禁止するという考えを拒否し、それは「政治的および外交的影響」を引き起こすと発言した。

政府の対応の遅さと、それに対する国民の抗議をきっかけに、ドゥテルテは中国に甘すぎて、フィリピン人の権利と主権の保護を犠牲にしているという長年の不満に火がついた、とフィリピン大学ディリマン校のハーマン・クラフト准教授(政治学)は言う。

ドゥテルテは人気のある政治家だが、フィリピンが領有権を主張する南シナ海に中国海軍が侵攻した際の緩い対応や、同海域に中国による人工島建設することを許したこと、大型のインフラ建設プロジェクトに関して中国企業の高利貸付契約に署名したことには批判が多い。

「大統領はフィリピン人を守ることより、中国の感情を傷つけることを気にしていた。そのせいでウイルスに感染した可能性のある人がたくさん入国したかもしれないという印象がある」と、クラフトは語った。

<参考記事>新型コロナウイルスがアパートの配管を通じて空気感染?(香港)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中