最新記事

情報セキュリティー

米軍が情報流出を恐れてTikTokの使用を禁止──16年にはポケモンGOの先例も

The TikTok Threat

2020年1月23日(木)18時00分
ジョセフィン・ウルフ

メキシコ国境のダナ・ベースキャンプでスマホをいじる米軍兵士 ADREES LATIF-REUTERS

<米国防総省は機密情報流出を懸念してGPSアプリの使用を禁止、しかし全てのアプリに対処するのは不可能に近い>

フィットネスアプリのストラバは2017年11月、2700万人のユーザーがよく使うランニングコースやサイクリングコースのルートマップを公表した。興味深いビッグデータを広く一般に提供するのが狙いだったが、これが思わぬ結果を招いた。

公開の数カ月後、オーストラリアの大学生がツイッターで、このマップ上のデータから米軍基地の位置を簡単に特定できると指摘した。これを受け、米国防総省は問題を調査すると発表。2018年8月、戦闘地域に駐留する米軍関係者全員に電子デバイス上でのGPSアプリの使用を禁止した。

現在も国防総省は、この方針を堅持している。昨年12月には、中国企業バイトダンス(北京字節跳動科技)が提供する人気アプリTikTok(ティックトック)の削除を軍関係者に推奨し始め、一部の軍施設では軍装備品のデバイス上で同アプリを禁止またはブロックしている。

国防総省は具体的な禁止理由を明らかにしていない。「TikTokアプリの使用には潜在的リスクがある」と警告するだけで、どんな脅威があるかも説明していない。

ポケモンGOも禁止に

しかし、最も可能性が高いのはTikTokが収集したデータに中国政府がアクセスできる点を懸念しているという説だ。親会社バイトダンスの本社は北京にある。

2019年11月には、米連邦機関の対米外国投資委員会がスパイ活動、検閲、外国の影響力行使のためにTikTokが使用される可能性への懸念を理由に、バイトダンスに対する国家安全保障上の調査を年内に開始することを決定した。

調査の詳細は明らかになっていないが、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、米当局は「アプリが中国にデータを送信している証拠を持っている」という。

TikTok側は、アメリカのユーザーから収集したデータは全てアメリカとシンガポールで保管しており、中国国内で運用しているデータセンターはないと主張した。

さらに昨年末には初の「透明性リポート」を公開。2019年上半期に世界中の法執行機関から受け取ったユーザー情報提供の要請件数を明らかにした。それによると、最も多いのはインドとアメリカの107件と79件で、中国からの要請はゼロだったという。

だが、TikTokのデータが中国国外で保管されており、中国当局がデータにアクセスを試みた事実はないと言われても、やはり懸念は残る。

チャック・シューマー、トム・コットン両上院議員はジョゼフ・マグワイア国家情報長官代行に宛てた2019年10月の書簡で、TikTokのデータが中国国外で保管されているからといって、中国政府の手が届かないとは限らないと指摘した。「それでもバイトダンスは中国の法律遵守を義務付けられている。(当局の)要求に同意できない場合、中国企業が争える法的枠組みは存在しない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英生保ストレステスト、全社が最低資本要件クリア

ビジネス

インド輸出業者救済策、ルピー相場を圧迫する可能性=

ワールド

ウクライナ東部の都市にミサイル攻撃、3人死亡・10

ワールド

長期金利、様々な要因を背景に市場において決まるもの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中