最新記事

感染症

新型コロナウイルスについて医学的にわかっていること

How China’s Coronavirus Is Spreading—and How to Stop It

2020年1月28日(火)19時15分
アニー・スパロウ(マウント・サイナイ医科大学助教)

より懸念すべきは、発熱を伴わないケースが何件かあったことだ。何の症状もない10歳の少女からコロナウイルスが見つかった例もあった。もし本当に新型コロナウイルスが症状も出ないうちから感染を広げられるのだとすれば、発熱は判断材料にならなくなり、スクリーニングの難易度ははるかに高くなる。

不思議なことに、子どもの死者は今のところまだ出ていない。不可解だが幸運だ。成人と比べて免疫系が未発達の子どもは、感染症にかかりやすい。RSウイルス肺炎がいい例で、大人はほとんどかからないのに、子どもは年間12万人近くが命を落としている。

だが新型コロナウイルスに関しては、症状を訴える子どもがほとんどいない。感染しないのではない。軽く済んでしまうのだ。大人になるほど重症になり死亡率も高くなる感染症といえば、SARSやMERSもそうだ。SARSの死亡率は全体では10%程度だが、子どもは1人も死んでいない。24歳未満の若者でも死亡率は1%程度なのに、50歳以上だと65%にはね上がる。いったい何が、子どもを保護しているのか。

病院がウイルスの温床に

もしかするとそれは、はしかや風疹を予防するために接種する生ワクチンの意図せぬ効果なのかもしれない。だとすれば女性より男性のほうが新型コロナウイルスに感染しやすい理由も説明できる。女性は、妊娠中に風疹にかからないようにするため、10代のときにワクチン補助剤を接種するから守られているのかもしれない。新型コロナウイルスのワクチンの完成を待つ間、大人にはしかのワクチンを与えることで、先天的な免疫を活性化することはできないのだろうか。

リスクはウイルスだけにとどまらない。新型コロナウイルスで入院した患者のうち、本当にコロナウイルスに感染していた患者は半分もいない。過剰な診断によるこうした「偽陽性」のケースが今後何百例と出てくれば、本物の患者が必要な治療を受けられなくなる。24時間シフトで働く医療スタッフへの負担もますます増す。ウイルスに感染したが家族に移したくないという理由で病院に寝泊まりしているスタッフまでいるのだ。

病院そのものがウイルスの温床になるリスクもかなりのものだ。SARSが流行した2003年3月に、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのも、多数の医療スタッフがSARSに感染したからだ。今回これまでに感染が報告されている医療スタッフはまだ16人だが、これが過少評価である可能性もある。1月25日には、患者に対応していた医師の最初の死亡例も伝えられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価目標の実現「着実に近づいている」、賃金上昇と価

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中