最新記事

感染症

中国が新型コロナウイルスに敗北する恐怖

How to Tell What’s Really Happening With the Wuhan Virus

2020年1月27日(月)19時25分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

新型コロナウイルスは武漢がある湖北省以外のほとんどすべての省に広がった(江西省瑞昌市で消毒作業をする公衆衛生当局者) cnsphoto via REUTERS

<武漢で発生した新型コロナウイルスは、ほぼ中国全土に広がった。阿鼻叫喚の患者であふれ、廊下に遺体が転がる「現地映像」は本物なのか。中国ではいったい何が起こっているのか>

中国では春節(旧正月)を派手に祝うのが慣例だ。だが今年に限って人々は花火を上げに街に繰り出そうともせず、家にこもって過ごしている。肺炎を起こす新型コロナウイルスに感染するのを恐れてのことだ。

ウイルスの「震源地」である湖北省武漢市への出入りが制限されたのを皮切りに、感染拡大を防止するために封鎖される地域は日々拡大、対象者の数は5000万人近くに及んでいる。1月27日には海外への団体旅行も禁止された。

確認された患者数は27日現在で2800人近くに達し、急速に増え続けている。死者は主に年配者で80人を超えた。春節の休暇を利用して旅行に出かける人々が感染をさらに広げてしまったのではとの懸念もあるなか、中国政府は2003年のSARS以来最悪の感染症危機を抑え込もうと必死だ。

中国国内ではチベット(地理的にも政治的にも孤立している)を除くすべての省で患者が発生している。アメリカは武漢に住む1000人近い自国民と領事館員を避難させるため、チャーター機を手配した。

<参考記事>安倍首相、新型肺炎で武漢在留邦人の希望者全員を帰国させる方針

封鎖は効果を上げているのか?

答えを出すのは時期尚早だが、あまり期待できそうにない。新型コロナウイルスによる肺炎だと診断されていない人もいれば、症状が出ていない人もたくさんおり、公式発表の数字は氷山の一角かも知れない。

だが最大の問題は、潜伏期間が長いことだ。このために、このウイルスの脅威が認識されるよりずっと前に──特に中国で帰省ラッシュが起こる春節を前に──多数の住民が武漢を出てしまった。彼らの行き先がどこだったかで話は大きく変わってくる。

封鎖の範囲はどんどん拡大しており、今では湖北省のかなりの部分が対象となっている。これは武漢周辺で感染が急激に広がっていることを示しているのかも知れない。外国の専門家の推計では、武漢では25万人以上が感染しているほか、大規模な流行があちこちで起きており、流行を抑え込むには感染の60%以上を食い止めなければならないという(その後、感染率の推計値が見直されて当初より低くなったが、まだ新たな数値を弾き出すには至っていない)。

封鎖そのものにも問題がある。通常の物流が断たれた状態で、住民に食料や日用品を供給するのは不可能でないにしても大変な作業だ。封鎖域内の品不足を防ぐには、軍とともに、アリババのような物流企業も動員されるかもしれない。武漢ではすでに物価は急騰、物資の不足が始まっており、対応が急がれる。

<参考記事>武漢封鎖パニック、中国株が大幅下落

人類存続の危機なのか?

その心配はたぶんない。問題のコロナウイルスは怖いウイルスではあるが、現在のところインフルエンザのように世界的流行を引き起こすような性質は持っていない。専門家によれば致死率も比較的低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力

ワールド

米連邦職員数、トランプ氏の削減方針でもほぼ横ばい

ワールド

イラン、欧州諸国の「破壊的アプローチ」巡りEUに警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中