最新記事

健康

喘息の悪化に上気道の微生物叢が関係している

2019年12月23日(月)17時24分
松岡由希子

Juanmonino-iStock

<セントルイス・ワシントン大学の研究チームは、子どもの喘息の重症度と上気道の微生物叢との関連を示す研究論文を発表した......>

米国では、18歳未満の子どものうち600万人以上が喘息にかかり、その割合は約8.3%にのぼっている。上気道の微生物叢は喘息の病態生理において重要な役割を果たしているが、喘息児の上気道の微生物叢と喘息制御の喪失、重症度の悪化との関連については、まだ解明されていない。

上気道の微生物叢の変化によって呼吸器が病気に......

米セントルイス・ワシントン大学の研究チームは、2019年12月16日、オープンアクセス誌「ネイチャーコミュニケーションズ」において、子どもの喘息の重症度と上気道の微生物叢との関連を示す研究論文を発表した。

研究チームは、軽症から中等症の喘息にかかっている5歳から11歳までの214人の子どもを対象に、喘息がよく制御されている「グリーンゾーン」と喘息の制御が失われて注意を要する「イエローゾーン」との2つのタイミングで鼻粘液のサンプルを採取し、上気道の微生物叢を分析した。

その結果、「グリーンゾーン」のときはコリネバクテリウムやドロシグラヌラムが多く確認された一方、喘息の再発の初期兆候がある「イエローゾーン」ではブドウ球菌やレンサ球菌、モラクセラといった細菌が見つかった。

また、上気道の微生物叢を支配する細菌がコリネバクテリウムやドロシグラヌラムからモラクセラに転換すると、喘息の症状を悪化させるリスクが高まることもわかっている。これはすなわち、子どもの上気道の微生物叢の変化によって呼吸器が健康な状態から病気になることを示し、微生物叢のパターンの変化が喘息の悪化に重要な役割を果たしている可能性をも示唆している。

新たな喘息の治療法への道をひらく

研究論文の責任著者であるアブラハム・ベイグルマン准教授は、一連の研究成果について「子どもの喘息の重症度と上気道の微生物叢との因果関係を証明したものではない」としながらも「上気道に生息する細菌の種類を変えるという新たな喘息の治療法への道をひらくもの」と評価している。

研究チームでは今後、上気道の微生物叢を人為的に制御したマウス実験によって、細菌と喘息の重症度との因果関係を解明していく方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中