最新記事

人道問題

ハイチの治安は最悪レベルの無法状態、ギャングと当局の癒着疑惑も

2019年12月17日(火)12時30分

ギャングによる暴力が横行するスラムから逃れ、市役所の中庭で避難生活を送る市民。12月7日、ポルトープランスで撮影(2019年 ロイター/Valerie Baeriswyl)

ベニト・バーナードさんの足は傷つき、血がにじんでいる。幼い子どもたちを連れて粗末な小屋を逃げ出した彼女は、サンダルを突っかける暇さえなかったと話す。

ハイチの首都ポルトープランスで最も評判の悪いスラム街をギャングが徘徊し、民家に押し入って発砲したためだ。

47歳のバーナードさんとその家族は、現在、ポルトープランス市内のシテ・ソレイユ区役所の中庭で避難生活を送っている。同じように騒乱状態から逃げてきた市民は200人以上。この国は、市民の一部指導者いわく、過去10年以上の間で最悪の無法状態にある。

「連中は住民の家に押し入り、殴りつけ、発砲した」。木陰に広げた敷物に横たわるバーナードさんは、涙ながらにそう語る。「誰もが逃げ出した。だから私も子どもたちを連れて、急いで家を離れた」

国連の平和維持部隊は15年間の駐留を終え、2017年にハイチから撤収した。人口の6割近くが1日2ドル40セント以下で生活する、南北アメリカ大陸の最貧国ハイチの法と秩序はしたという建前だ。

だが、部隊が撤収した後には治安の空白状態が残された。この1年間、治安部隊がモイーズ大統領に対する抗議行動への対処に追われたため、治安悪化はいっそう深刻になった。

国連ハイチ司法支援ミッションのセルジ・テリオー警察部門長官は、メディアとのインタビューで、「リソースに限りがあるため、ハイチの警察は犯罪組織の活動を思うように抑制できていない」と語った。

急速なインフレの進行を伴う経済悪化と低所得地区への投資不足により、犯罪は深刻化し、そのレベルは一線を越えた。

外交関係者は、こうした状況によって地域の安定に対する脅威が高まっており、移民や麻薬・武器密輸といった動きにも波及するのではないかと懸念しており、国際社会でも警戒感が生じている。米連邦議会下院の外交委員会は10日、ハイチに関する公聴会を開催した。この20年間で初めてのことだ。

モイーズ大統領はすでに国内を統治する力を失い、辞任すべきと批判されている。一方、51歳の大統領は状況はすでに沈静化しつつあり、任期満了まで務めるとしている。

住民によると、ギャングは縄張りを争い、「みかじめ料」を徴収し、麻薬や武器を売買しているという。

人権活動家や一般の国民は、政治家は与野党関係なく反政府運動の抑圧や扇動のために犯罪組織を利用しており、武器の供与や犯罪の揉み消しに協力していると話す。

シテ・ソレイユ地区に住むウィリアム・ドレリュスさんは、「ギャングは政権から金をもらい、市民が反政府抗議行動に参加するのを妨害する」と語る。「野党側から金をもらえば、むりやり街頭行動に動員しようとする」

政府も野党指導者も、こうした疑惑を否定している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中