最新記事

人道問題

ハイチの治安は最悪レベルの無法状態、ギャングと当局の癒着疑惑も

2019年12月17日(火)12時30分

当局の黙認が助長する犯罪

モイーズ大統領は11月、ロイターとのインタビューで、ハイチ警察の強化に取り組んでおり、ギャング構成員の武装解除に向けた委員会を復活させたと述べている。

大統領府は10日、治安対策について問い合わせたロイターに対し、「違法な暴力に関する告発は、優先的に我が国の司法制度による捜査・対応の対象となる」と文書で回答した。

だが、政権に批判的な人たちによれば、モイーズ大統領の指揮下にある司法当局は犯罪組織のリーダーを訴追していない。実質的に、犯罪組織のなすがままに任せ、警察の権威を弱めてしまっている。

「警察が犯罪組織の一員を拘束すると、必ず当局からの介入があり、釈放することになる」と語るのは、ハイチ国民人権擁護ネットワーク(RNDDH)のピエール・エスペランス氏。

10日の米下院における公聴会で証言したエスペランス氏は、今年に入って殺害された警察官の数は、昨年が17人、今年は40人以上に上るという。

人権活動家が挙げる当局による犯罪黙認の顕著な例は、モイーズ政権に反対する抗議行動の拠点となっているラ・サリーヌ地区で1年前に起きた虐殺事件だ。

国連の報告書によると、ギャングは2日間にわたり26人を殺害したが、警察は介入しなかった。報告書の中にある目撃証言は、ギャング構成員とともに政府高官の姿があったとしている。

「こうした告発により、ギャングと当局の間に共謀関係が存在する可能性が浮上している」と、報告者は指摘している。

この政府高官は一切の関与を否定していたが、最終的には解任された。だが、この高官以外に逮捕・訴追された者は1人もいない。

ラ・サリーヌ地区の住民は、見殺しにされているようだと話す。

「あのような事件が起きても、当局者からの訪問は一切ない」と語るのは、55歳のマリールード・コレスタンさん。彼女は、ばらばらになった遺体の山のなかに24歳の息子の亡骸を見つけ、自宅は焼かれてしまったという。「ギャングたちはまた戻ってくる。女も男も子どもも区別しないと言っていた」

RNDDHによると、こうした虐殺事件はモイーズ大統領の就任以来6回発生している。11月にも起きたばかりだという。

息子2人が見つからないバーナードさんを含め、多くの人は怖くてまだ帰宅できないと話す。

「息子たちが死んでいないことを願っている」とバーナードさん。「こんな暴力状態が終わりを告げ、生きていける場所を見つけたい」

Andre Paultre Sarah Marsh
(翻訳:エァクレーレン)

[ポルトープランス ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中