最新記事

米中貿易戦争

米中貿易第1段階合意はトランプの大ウソ、第2段階はない

The Good, the Bad, and the Ugly: Three Takeaways From the Would-Be U.S.-China Trade Deal

2019年12月16日(月)19時10分
キース・ジョンソン

これも大法螺なのか(12月14日、フィラデルフィアで陸海軍対抗フットボールを観戦したトランプ)  Danny Wild-USA TODAY Sports

<構造改革や知的財産権の保護、何より製造業を取り戻すことなど根本的な課題はすべて先送り>

アメリカと中国はそれぞれ、貿易協議の第1段階の合意に達したと発表した。合意の内容も、それがいつ署名され、承認され、実施に移されるかも不透明だが、貿易戦争中の両国の緊張緩和が現実味を帯びてきたように思われる。

ドナルド・トランプ米大統領は12月13日、ツイッターで米中両国が「非常に大きな」合意に達したと述べた。内容的にはこの1年半の間に何度か浮上したものと同じで、中国が米製品の輸入を増やす代わりに両国が関税の一部を緩和し、アメリカが15日に予定されていた新たな関税の発動を見送るというものだ。米通商代表部(USTR)は詳細を明らかにしていないが、合意には「意義深い、完全実施可能な構造的変化」が含まれるとしている。

中国政府も記者会見を開き、合意に達した点については認めたが、トランプが言うような、中国が経済における「構造的な」変化を受け入れたといった点は認めなかった。構造的変化とは工業分野での政府の補助金や中国の工業発展政策に終止符を打つといった項目を含み、これまでの交渉を通じて一切、中国が認めてこなかったものだ。

以下では、今回の合意に関しこれまでに明らかになっている部分について、3つの重要なポイントを取り上げる。

さらなる関税は回避した

今回の合意により、アメリカは15日に予定されていた、約1600億ドル分の中国製品を対象にした新たな大型関税の発動を見送った。これで米中両国の経済に影を落としていた大きな脅威が消えたことになる。

新たな追加関税は消費財に焦点が当てられており、主にアメリカの製造業が打撃を受けたこれまでの追加関税と異なり、影響は大きいとみられていた。両国が合意に達したと伝えられた12日、ニューヨーク株価は過去最高値を記録。その勢いは翌13日まで続いた。

合意にはこれまでの関税の引き下げも含まれており、アメリカはこの夏に発動した追加関税を半分に引き下げる方針だ(第一弾の追加関税についてはそのまま)。これにより、中国製の生産財(生産機械や原料・部品)に依存している米製造業はある程度は救われるだろうし、ここしばらく減少が続いている中国からの輸出も多少なりとも勢いづくだろう。

関税を引き下げる代わりに、アメリカは中国から一定の譲歩を引き出すことになる。つまり米製品の輸入を増やすと言うことだ。これには中国側が認めた農産品はもちろん、トランプの言うように原油や天然ガスも含まれるかも知れない。また中国は、知的財産侵害への取り締まり強化も公約した。

「休戦は非常に大きな意味を持つ」と、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のメアリー・ラブリーは述べた。ことに、新たな追加関税の発動が回避されたのは大きいという。「通商交渉の結果、崖っぷちから引き戻された」

<参考記事>棘は刺さったまま:米中貿易第一段階合意
<参考記事>米中貿易「第1段階合意」が中国の完敗である理由

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米大手銀、アルゼンチン向け200億ドル支援計画を棚

ワールド

トランプ氏、ブラジル産牛肉・コーヒーなどの関税撤回

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ハルキウ州の要衝制圧 ウクラ

ビジネス

金融政策の具体的手法、日銀に委ねられるべき=片山財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中